教育振興基本計画10

皆さんこんにちは。

令和5年6月、新たな教育振興基本計画が閣議決定されました。

そもそも教育振興基本計画とは、「教育基本法(平成18年法律第120号)に示された理念の実現と、我が国の教育振興に関する施策の総合的・計画的な推進を図るため、同法第17条第1項に基づき政府として策定する計画です。」と説明にある通り、政府が教育をどのようにしていくか、という施策のもとになるものです。

特に行政職の皆様はしっかりコンセプトや計画を確認して、ご自分の自治体の施策にご活用いただければと思います。なぜなら、予算が通りやすいからです。自治体独自の施策を実施しようとしたときに、「教育振興基本計画のこの部分に則っています」という説明は大変有効ではないでしょうか。

本文のボリュームも多く、新しい言葉も次々出てきますが、ゆっくりご一緒に確認していきましょう。

Ⅱ.今後の教育政策に関する基本的な方針

④教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

(DX に至る3段階)

計画では、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、世界全体にデジタル化の飛躍的進展をもたらした。」とあります。

オンラインでの打合せが当然のように行われ、「対面で会う」価値が変容した様を私たちは目の当たりにしました。「教育の分野において ICT を活用することが特別なことではなく「日常化」するなど、デジタル化を更に推進していくことが不可欠である。」ともあります。教育だけではなく、様々な分野が日常的にICTを使うことが必要だ、というのは今の時代の流れとして自然な流れだと思います。

続いて、デジタル化の3段階が述べられています。

1 デジタイゼーション:紙の書類などアナログな情報をデジタル化すること
  例:紙のプリントをデジタル化して配信すること

2 デジタライゼーション:サービスや業務プロセスをデジタル化すること
  例:紙の教材を組み合わせている現状から、デジタル教材のリコメンドを参考に教材の最適な選択を行うことができるようになること

3 デジタルトランスフォーメーション:デジタル化でサービスや業務、組織を変革すること
  例:教育データに基づく教育内容の重点化と教育リソースの配分の最適化

学校現場では1の段階ですらまだまだ、というところも多いのではないでしょうか。学校が紙の書類を減らす努力をしていても、外部からの様々な依頼が学校に押し寄せており、それが紙であることはまだまだとても多いです。

計画では、3の段階、デジタルトランスフォーメーションを進めていくこととなっていますので、その実現のために以下3点を可能な部分から着手し全国的な仕組みにつなげていく、とあります。

  • 教育データの標準化などの共通的なルールの整備
  • 基盤的ツールの開発・活用
  • 教育データの分析・利活用について、

この3点は、確かに現場でそれぞれ考えるものではないですね。特に1などは、国がルールを定めていく必要があります。

計画によると、現在「第一段階の準備は整った」とあります。全国の学校は第一段階を着実に実行し、第二、第三段階へと移行する必要がある、ということです。

計画には「DX の推進に当たっては、デジタル機器・教材の活用はあくまで手段であることに留意することが必要である。教育 DX を進めた上で、デジタルも活用して問題解決や価値創造ができる人材の育成こそが目指されるべきである。」とあります。これは確かに、「あくまで手段」ということがとても重要です。ただ、「手段だから別に使わなくてもいい。今まで使わなくてうまくいっていたのだから」という解釈は危険です。

デジタルの活用は必須です。手段を目的化しない、ということが大事で、デジタルを使わなくていいということではないことに注意が必要です。

(各学校段階における教育 DX の推進)

初等中等教育:学習の基盤となる資質・能力としての情報活用能力を育成するとともに、そのための教師の指導力向上・ICT 環境整備の更なる充実

高等教育:面接授業と遠隔授業を効果的に組み合わせたハイブリッド型教育やデジタルを活用した教育の高度化を図るとともに、データサイエンス等の履修促進などを進めること

生涯学習:遠隔・オンライン教育の活用による受講の利便性の向上や学習履歴の可視化におけるデジタル技術の活用を推進

という各段階において重要となるものについて説明があります。生涯教育の内容が、え、その段階ですか? と感じてしまうものではありますが、現実に即したものですね。

ここからあとには、重要視しなければならないものがたくさん出てきています。キーワードを拾っていくと

  • デジタルリテラシー
  • サイバーセキュリティ
  • 自分で考え行動できる力を育む
  • 誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出すための教育
  • 子供の貧困や虐待、いじめ→、関係機関とも連携、学校の福祉的役割をより発揮
  • 生成AI→効果をもたらす可能性と生じうるリスクを踏まえて対応
  • 個人情報の適正な取扱い←→データの活用のバランス
  • 保護者等に対するデータ利活用のメリットや技術的な安全性等についての説明
  • 国や地方公共団体の各レイヤーでルールや標準化を進める
  • 個々の学校においてその権限に基づき業務フローの改善

(デジタルの活用とリアル(対面)活動の重要性)

「デジタルとアナログ、遠隔・オンラインと対面・オフラインは、いわゆる「二項対立」の関係には立たないことに留意が必要」とあります。良い塩梅で組み合わせることが大事ですね。その「良い塩梅」は様々な知見が必要です。

遠隔でお話を聞くこと、対面でお話を聞くことのメリットデメリットはそれぞれあり、状況によって最適な方法を考えることが大事ですね。

例えば、宇宙滞在中の宇宙飛行士とリアルに会話したければ、絶対遠隔になります。これは遠隔がもたらしたメリットですね。小さな工房の職人の方にお話を聞く場合は、遠隔だとどの子も同じアングルでその仕事を間近に見ることができます。対面でお話を聞く場合、その職人の方の息遣い、道具さばきなどが実際に見られてとてもメリットがあります。

どのような学習をさせたいのか、がデザインされた授業でその目的に合った方法を選ぶため、先生方はデジタルと従来のアナログのそれぞれ良いところを知っておく必要がありますね。

来週は教育振興基本計画の続き、⑤計画の実効性確保のための基盤整備・対話を読んでいきます。

投稿者プロフィール

大江 香織
大江 香織
株式会社ハイパーブレインの取締役教育DX推進部長 広報室長です。
教育情報化コーディネータ1級
愛知教育大学非常勤講師です。専門はICT支援員の研究です。