なぜ今GIGAスクール構想が必要なのか(後編)

前回の記事では、現状学校で情報活用能力の育成を体系的にはなかなかしきれていないと書きました。今回は、どのようにすれば学校でもっとスムーズに情報活用能力の育成ができるのかについて書かせて頂きたいと思います。

そもそも情報活用能力とはどのような能力の事を指すのでしょうか。文部科学省の「教育の情報化に関する手引」では、「「情報活用能力」は、世の中の様々な事象を情報とその結びつきと捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力である」*1とされています。

この様な能力を学校で育むために、どんな取り組みをすれば良いのでしょうか。児童生徒一人当たり1台のタブレット端末を導入すれば、従来のままの教育方法で育まれていくのでしょうか?

それは難しいと考えられます。なぜなら、従来の授業は比較的受動的な体系となっており、子供が自主的に問題解決の為の情報を得るために行動する機会が少なく、テストや宿題、課題で与えられた問題を解決する方法は、授業の中であらかじめ先生が教えていたということが多いからです。それを自分の中で加工して、問題を解決する、というのが現在の教育方法の主流となっています。

これは子供に情報を与え、覚えさせる事が均一で質の高い学習に繋がるからだと考えられていたからです。*2
また、実際に過去の国際的な学力テストでも実際に高い点数を維持し、日本型教育として国際社会から高い評価を受けてきました。*3しかし、前編で書いたように、現在、子供たちの特定の情報活用能力に関しては遅れが生じてきています。

つまり、これからは従来式の授業だけでは子供たちに必要な能力が育まれづらいため、学習指導要領にあるような「主体的・対話的な授業」を積極的に取り入れることで、従来式の授業で育むことの難しかった能力を育む必要があるということになります。

情報活用能力を育むには、子供が全く未知の問題に対して主体的に解決方法を探っていく、という取り組み方が重要になります。では、そのような授業を学校で行うにあたり、何が必要になるでしょうか?

一つは子供が主体的・対話的に参加する授業を行っていくことです。現状の日本教育が比較的受動的な授業体系を取っている事は上述の通りですが、そういった授業に加えて、子供が主体的に参加し、自分でわからないことを調べ、得られた情報を理解し、加工し、自分の回答を導き出すような授業が必要です。

もう一つは、わからないことがあったときに、子供が即座に調べることの出来る環境が必要です。
つまり、高速インターネットに、ICT機器を使って即座にアクセスすることのできる環境です。現状の学校には高速インターネットに接続するための環境や、児童生徒一人当たりのICT機器の数が不足しています。*4

教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数
出典:文部科学省 平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【確定値】 (PDF:781KB)  p9
https://www.mext.go.jp/content/20191224-mxt_jogai01-100013287_048.pdf

つまり、子どもが主体的に参加する授業を、ICT機器を存分に使用することのできる環境で行うことで、わからないことを積極的にICT機器で調べて解決方法を探り、得られた情報を自身に取り入れて理解、加工して、それを回答として表現する。こういった取り組みを通じてこそ情報活用能力が得られるのではないかと考えられます。

では、学校にICTを利用できる環境が整ったとして、それを存分に活用した授業がすぐに行われるようになるでしょうか?これも難しいと考えられます。

上記のような授業を行うというためには、子供に教えるために先生方もICT機器が使えることが前提となります。子供たちがICT機器を使用して送ってきた回答を、同じようにICT機器を使用して評価する必要があります。

例えば、ワードで作成された文章をクラウド上にアップロードして提出するのであれば、先生はその方法を子供たちに教えなければいけませんし、アップロードされた提出物をクラウド上からダウンロードして、ワードで開いてチェックしなければ課題の評価ができません。
今まで全くICT機器を授業に使ってこなかった先生方には難しい取り組みになることと考えられます。

では、どうすれば普段から非常に忙しい先生方が、従来の授業体系に加え、ICT機器を使った新しい主体的・対話的な取り組みを、授業を取り入れることができるようになるのでしょうか。

そのためには、ICT支援員を始めとする人的な支援が必要不可欠であると考えられます。以前の記事である「運用の壁を乗り越えるために」で書かせて頂いたような方法で先生をサポートすることで、先生方の手間や労力を減らすことが可能であり、先生方のICTのスキル面や、授業に必要なハードウェア・ソフトウェア面でのサポートも可能になります。

上記の内容をまとめてみます。
子供たちの情報活用能力の向上には主体的・対話的な授業を、ICT機器を用いて行う必要があり、先生もICT機器を使用して授業をする必要がある。
先生がICT機器を授業に導入できるように、ICT支援員や、企業がサポートする必要がある、という事になります。
そして、これらを全てまとめて行う事が出来るのがGIGAスクール構想なのです。

「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に校正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICTの実現」*4 をするためには、全ての子供たちがICT機器を利用できる環境が必要であり、授業を行う全ての先生方が、ICTを活用できるようになる必要があります。これが今、GIGAスクール構想が必要な理由です。

<参考文献>

*1 文部科学省 教育の情報化に関する手引き-追補版(令和2年6月) 第2章

(最終閲覧日2020年7月27日)

https://www.mext.go.jp/content/20200608-mxt_jogai01-000003284_003.pdf

*2アクティブラーニング(グループ学習)の経験に基づく学習タイプ

白井靖敏(2011). 名古屋女子大学紀要 家政・自然編, 人文・社会編 (57), 117

 (最終閲覧日2020年7月27日)

https://core.ac.uk/download/pdf/230444916.pdf

*3 文部科学省 我が国における「学校」の現状

(最終閲覧日2020年7月27日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1379013.htm

*4 文部科学省(リーフレット)GIGAスクール構想の実現へ (PDF:4.0MB)

(最終閲覧日2020年7月27日)

https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf

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