熊本市の情報教育のご紹介

今回は、GIGAスクール構想以前から教育の情報化に積極的に取り組まれている熊本市について、どのような取り組みをされているかをご紹介させて頂きます。前回ご紹介した相模原市同様、提示資料が豊富なため、ぜひご参考にして頂ければと思いピックアップ致しました。

熊本市では、熊本市独自のICT教育モデルカリキュラムを作成し、そこでどのような授業を目指すのかという指針が明確にされています。*1

ICT機器を授業に使うことにこだわるのではなく、「授業改善」「情報活用能力の育成」「プログラミング教育」の3点を柱としたモデルが示されており、まずはこの3つの柱について、ご紹介させて頂きます。

「授業改善」では、それぞれ学習者が自らの考えを持ち、それらを出し合いながら、対話して学習を進める協動的な学習が必要であり、その為にタブレット端末を使用します。
その為には従来の授業のスタイルを変える必要があり、ロイロノートやメタモジといったアプリケーションは協動的な学習を効果的に行うために使用しています。

また、「対話」とは話し合いを指すのではなく、自己の中に内面化する活動(内化)とされています。これは話し合いのみでは生まれず、「何を学んだか」を明確にし、記述する必要があるとされています。
つまり「対話」においては、話すだけではなく、「聞く」「書く」ということが極めて重要であるということになります。

学習の評価にも工夫がされています。情報活用能力の様な、従来のテスト形式では測定できない能力を育成するには、学習の過程の段階で形成的に評価していくことが効果的であるとされており、これはパフォーマンス評価とルーブリックと呼ばれています。
パフォーマンス課題とは状況設定の中で知識やスキルを使いこなす課題で、例としてはディベートやリーフレット・レポートの作成が挙げられます。

ルーブリックとは評価基準と呼ばれるもので、パフォーマンスの採点の指針を示し、達成のレベルと評価項目からできています。
例として美術家「町のポスターを作ろう」という授業では以下のように目標が設定されています。*1

次に、授業の観点を元として評価基準を定め、ルーブリックを作成します。上記の授業例では、以下の様なルーブリックが使用されています。

ル―ブリックは必ずしも教師が作成するのではなく、子供が作成することも可能で、「どんなことが出来るようになりたいか」を子供に問いかけ、評価基準を学習者が作成することで、学習がより主体的になります。

最後に自己評価シートを作成させ、何ができるようになったか、何ができなかったか、どうすれば良いかを文章で書くことで、学びを言語化し、知識として習得します。

これを継続することで、子供たちの自己評価の力を高めていくことが出来れば、それがそのまま形成的な評価につながりますし、教師も自身の授業のありかたを振り返る材料にもなります。*1

「情報活用能力の育成」について、学習指導要領では、情報機器を使いこなすことではなく、情報や情報技術を効果的に活用することや、問題の発見、解決、自分の考えの形成に役立てる資質・能力であるとしています。具体的には以下の事ができるようになることを指しています。

また、各教科でどのような学習活動を取り入れることが重要かも記載されている他、情報活用能力育成の課題として、文部科学省が作成・公開した「21世紀を生き抜く児童生徒の情報活用能力育成のために」*2という資料で挙げられた10の課題について、課題ごとにどの様に取り組むのかについても記載されています。

これらの課題はどれも生じやすく、各学校で取り組む必要があるとされています。*1

指導体制とカリキュラムの課題
情報収集での課題、情報整理・比較での課題

また、情報活用能力は「知識・技術」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性など」の3つの柱で構成されていて、情報活用能力を育成するためには計画的・系統的に指導する必要があり、「基礎的な知識・理解」「思考・判断・表現力」「プログラミング的思考」「情報モラル」の4つの観点から到達目標を学年ごとに設定しています。*1

プログラミング教育に関しては、中央教育審議会の議論では「情報や情報技術を主体的に活用していく力や、情報技術を手段として活用していく力」が大切であると指摘されており、さらに「子供たちが将来どのような職業に就くとしても、「プログラミング的思考」などを育んでいく必要であり、そのため、小、中、高等学校を通じて、プログラミング教育の実施を、子供たちの発達の段階に応じて位置付けていくことが求められる」とされています。*3

「プログラミング的思考」とは、
「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」
とされており、「順序」「場合分け」「繰り返し」の3つの要素を組み合わせることで、様々なプログラミングが可能になるとされています。*1

また、プログラミング教育で育む資質・能力を「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つに整理し、発達の段階に即して育成するとしています。

プログラミング教育の狙いとして、プログラミング言語を覚えることや、プログラミングの技能そのものを習得すること自体は狙いとしておらず、

「プログラミング的思考を育むこと」
「プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータ等の情報技術によって支えられていることなどに気付くことができるようにするとともに、コンピュータ等を上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりしようとする態度を育むこと」
「各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、各教科等での学びをより確実なものとすること」を挙げています。*1

プログラミング教育の年間カリキュラムの例も挙げられており、小学校プログラミング教育も文部科学省に倣って6分類されています。

このカリキュラムでは、どの学校でも無理のない形でプログラミング教育が実施できるよう、C分類で年間1~2時間でプログラミングの技能の基礎を学び、その後、その技能を使い教科等の単元の中で1~2時間の学習ができるような基本的なカリキュラムが例示されています。

そして、このような教育を、各教員が適切に行えるよう、教員の指導に力を入れているのが熊本市の教育の特徴であると考えられます。

「熊本市教員等の資質向上に関する指標」では、国が定める「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針」と熊本市が定める「教育都市くまもとの教職員像」等を踏まえて、各教員等の資質向上や人材育成の道標として、経験段階に応じて求められる資質・能力(以下、能力を含めて「資質」という)を明確化しており、キャリアステージに応じてどのような資質・能力が必要かを明記しています。*4

そして、そのような資質・能力を得られるよう様々な研修を行うことや、教育塾「きらり」を開催することで、情報教育のスキルや、主体的・対話的な授業を行うスキルを育もうとしています。
より良い情報教育を行う為に、まずは教員の資質・能力を育成しようとされているのです。もしこの様な取り組みが全国各地で行われるようになれば、教育の情報化が飛躍的に発展するのではないでしょうか。

その他にも、熊本市では情報モラルの育成に力を入れています。保護者向けのリーフレットの配布に加え、情報モラル通信として定期的に情報モラルに関する情報を更新しているほか、情報モラルの授業を行う為の授業の流れを配信する等、より高度な授業を実践できるよう工夫されています。*5

また、教育センターが作成されたデジタル教材を教育目的にフリーで提供することや、おすすめの学習サイトをピックアップしてリンクを張るなど、ICT教育を充実させるための工夫がふんだんにされています。*6

熊本市ではGIGAスクール構想が提唱される前から、非常に積極的に教育のICT化に取り組んでこられました。日本の情報教育の最先端を実践されている熊本市のことをご紹介させて頂く事で、教育の情報化の一助となることが出来れば幸いに思います。

<参考資料>

*1 熊本市教育センター 熊本市版ICT教育モデルカリキュラム(最終閲覧日2020年8月31日)

*2 文部科学省 21世紀を生き抜く児童生徒の情報活用能力育成のために(最終閲覧日2020年8月31日)

*3 文部科学省 「教育の情報化に関する手引き」について 第3章プログラミング教育の推進(最終閲覧日2020年8月31日)

*4 熊本市教育センター 「熊本市教員等の資質向上に関する指標」の活用について キャリアステージとしての教職員研修体制(最終閲覧日2020年8月31日)

*5 熊本市教育センター 先生ちゃんねる 情報モラルの授業(最終閲覧日2020年8月31日)

*6 熊本市教育センター オリジナルコンテンツ 熊本市教育センターオリジナルデジタル教材(最終閲覧日2020年8月31日)

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