メディアへの依存をデジタル・シティズンシップで考える

前回はネットトラブルの防御・予防方法、デジタル・シティズンシップの考え方をご紹介しました。
今回はインターネットやSNSなどをいつでもどこでも使ってしまう、止めたくても止められないといったメディア依存に対して、デジタル・シティズンシップでどのように考えるのかをご説明します。

依存を予防するには

大人でもスマートフォンなどの端末をなかなか手放せなかったり、夜につい使いすぎて夜更かしをしてしまったりといった経験のある方も多いのではないでしょうか。
そしてだからこそ、子供たちが使うともっとのめりこんでしまうと考えるのではないでしょうか。

デジタル・シティズンシップでは、使用するメディアのバランスを考えます。
バランスを考える際には、スマートフォンを何時間使っているかではなく、調べものに何時間使い、娯楽のために動画を何時間視聴といったように、何の目的でどのメディアをどれだけ使ったかを考えるとよいでしょう。

面白い動画を見て2時間スマートフォンを使うのと、学習のために1時間使い、息抜きに1時間動画を視聴するのとでは意味が大きく異なります。

そのため子供が何を目的として、あるいは何を補うためにメディアを使っているのかに注目する必要があります。*1

メディア使用のバランスは、一度立ち止まって考えてみることが大切です。なぜデジタル技術を使うのか考えて、子供たちが自分で使用時間や目的をコントロールできるようになる必要があります。

内閣府のこちらの資料(外部リンクが開きます)では子供がセルフコントロールできるように準備することの必要性が紹介されており、子供が少しずつ自律してメディアを使用できるよう、国の考え方も段々と変わってきています。*2(下図)

ペアレンタルコントロールからセルフコントロールへ!
<出典:内閣府 普及啓発リーフレット集 令和4年1月版 青少年の保護者向け普及啓発リーフレット
「保護者がおさえておきたい4つのポイント(生徒編)」 4ページ
(PDF形式:490KB)
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_use/r03/leaf/pdf/leaf-4.pdf
(最終閲覧日2023年1月30日)>

ただどうしても、ネットやSNSを使い始めたときには面白くてついつい使いすぎてしまう、ということが起こりえます。
そんな場合に備えてスマートフォンなどの端末を使い始めるにあたっては、使用のための具体的なルールを各家庭で作るようにするのがよいでしょう。*2

たとえば勉強中は大人がスマートフォンを預かるようにしたり、一定時間使ったら目を休めるようにしたりするなどのルールです。

学校で一人一台端末を使用する際や持ち帰り学習を行う際にも、使用のルールが決まっていると思います。
それを説明する際には、どうしてルールがあるのかを子供たちに考えてもらい、そのルールが子供たちを守り、安全に使用するためのものだと納得してもらうことが大切です。*3

また家庭でのルールを決める際には、子供としっかりと話し合い、お互いが納得したうえで決めることがとても重要です。*1
子供たち自身にとっても、自分に何が必要でインターネットやSNSを使うのかを考え、コントロールするための第一歩に繋がります。
大人も子供の意見を聞くことで、それぞれのメディアに子供が何を求めているのか、何が不足しているのかを考える材料になります。

前回紹介したWebサイト 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」(外部リンクが開きます)でも「利用を制限する引き算よりも、不足を補う足し算を心がける」といった説明がされています(下図)*1

利用を制限する引き算より、不足を補う足し算を心がける
<出典:総務省 上手にネットと付き合おう! 安心・安全なインターネット利用ガイド インターネットトラブル事例集 利用を制限する引き算より、不足を補う足し算を心がける
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/reference/reference06.html
(最終閲覧日2023年1月30日)>

もしも子供がルールを破ってしまった場合にどうするのかも、子供とあらかじめ話し合って決めておくとよいでしょう。*3
ルールを破ってしまったときには一度立ち止まって、どうして破ってしまったかを子供と一緒に考えることで、メディア使用の目的や子供に何が不足しているかを改めて見直す機会にもなります。

子供がスマートフォンなどの端末をどう使ったかを確かめたい場合には、iPhoneであればスクリーンタイム設定、AndroidであればDigital Wellbeing機能が役立ちます。(下図)

時間の長さだけではなく中身に着目
<出典:内閣府 普及啓発リーフレット集 令和3年1月版 青少年の保護者向け普及啓発リーフレット
「保護者が正しく知っておきたい4つの大切なポイント(児童・生徒編)」2ページ
(PDF形式:393KB)
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_use/r02/leaf/pdf/leaf-2.pdf
(最終閲覧日2023年1月30日)>

これらの設定を行うと、どのメディアをどれだけ使ったかが子供の端末に記録されます。それを大人も一緒に振り返ってみることで、何に興味をもっているのか、どんな目的でスマートフォンを使うのかなどを共に考えることができます。

スクリーンタイム設定(iOS)についてはこちら(外部リンクが開きます)のWebサイトの「iPhoneのファミリー共有でペアレンタルコントロールを設定する」を参考に設定することで、子供の端末の使用状況(利用時間)を確認できるようになります。
また「ファミリーメンバーのデバイスに休止時間とAppの制限を設定する」を参考として、アプリケーション使用制限や、端末を使用しない時間の設定が可能です。

Digital Wellbeing機能(Android)に関してはこちら(外部リンクが開きます)のWebサイト「アプリの利用時間を管理する」に子供が端末を利用した時間の確認方法が掲載されています。またこちら(外部リンクが開きます)のWebサイトの「主な機能を設定する」では、端末利用時間の上限やアプリケーションの許可・ブロック方法がご紹介されています。

なぜメディアに依存してしまうのか

インターネットやSNSなどのメディアに依存してしまうそもそもの原因は、メディアそのものではなく、その裏に隠れている場合があります。*1

たとえば常にSNSを使用している場合には孤独を紛らわせるための可能性がありますし、インターネットを常に使っている場合にはそれ以外に熱中できることがない、といった可能性が考えられます。

そのような不足しているものを実生活で補うことで、より健康的な生活ができるようになるのではないでしょうか。
インターネットやSNSが現実を忘れて逃げ込む場所になってしまうことは、子供たちにとって、とても不幸なことです。
(できる限りの不足を補っても子供がどうしてもインターネットやSNSから離れられないときには、利用時間を制限する機能が必要になることがあります。*4
そうした設定をしても抜け道を探して使用してしまうといったときには、単純なメディア依存ではないもっと大きな問題(精神的な病気などによる非常に強いストレス)*4が原因の可能性もあり、医療機関などへの相談が必要になる場合もあります。)

依存の原因を考えるにあたっても使用ルールの設定や、破ってしまったときの見直しが有効です。

ルールを見直す際には一方的に押さえつけるように決めたり、スマートフォンなどの端末を取り上げるだけだったりにならないよう注意が必要です。
子供と一緒に考えることで、なぜルールを守れないのか、どうしてつい使ってしてしまうかの裏側にある本当の原因や、何が不足しているのかに気付きやすくなります。

メディアの特性に合った使い方をする

デジタル技術を使う際にはメディアの特性に合った使い方をすることも重要です。
目的や用途に合わせて上手に使い分けられるようになれば、できることの幅も大きく広がります。

たとえばインターネットであれば手軽に最新の情報を検索できますが、著者や発行元の確認の簡単さでは本に劣ることがあります。逆に本はそれらの点で優れてはいますが、情報の更新速度が速い今日では古い情報しか載っていないかもしれません。

そのためインターネットでの情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、情報の発信元がどこかを確認したり、複数の発信源から情報を得て、それが正しいかを考えたりするように習慣づけることも大切です。

SNSは同じ趣味などを持つ人と、簡単に繋がることのできるツールです。自分の望むコミュニティに所属することで、情報の共有ができることや居場所が増えることなど、さまざまなメリットがあります。
一方で、もしかすると知らない人と連絡を取ることもあるかもしれません。
ではその人を、実際の友人と同じように信用しても大丈夫でしょうか。
どれだけSNS上で仲良くなっても、画面の向こう側にいる人はSNS上での振る舞いとは別の側面を持っているかもしれませんし、もしかすると別人になりすましている可能性もあります。
それが本当にその人の本性なのか、あるいは本人なのかをきちんと確認することは大人であっても難しいため、特に子供の間はSNS上で知り合った人を深く信用しすぎない注意深さも必要です。*5

またインターネットやSNSはその性質上、一度情報を投稿すると完全に消去することはほぼ不可能です。悪ふざけのつもりで撮った画像を投稿したら、それが今後の人生にずっと付きまとう、ということも起こりえます。*6

令和5年2月現在、子供が行った飲食店での迷惑行為の動画がSNSへ投稿され、さまざまな場所で話題になっています。このような事態になると、たとえ5年、10年経ったとしてもその投稿は残り続けます。

そのため画像や動画を投稿する際などには、それが投稿して問題ないものなのかをしっかりと確認してから投稿することが大切です。(子供の発達段階によっては、投稿前には大人に確認をしてもらうようルール設定をすることも必要です。)

それぞれのメディアの特性を理解し、不足している部分を意識することで、より安心してデジタル技術を使うことができます。

必要なのはメディアで得た情報が正しいかを疑って確かめたり、自身の投稿に問題が無いかを確認したりする注意深さ、複数の情報源、それにさまざまなメディアに対する理解です。

メディアの特性や適切な使い方を子供たちに考えてもらうことも大切です。
考えて、(もしも自分の考えに自信がない場合やわからないときは大人に確かめて)それを実践できるように訓練する必要があります。

メディアの善いところを引き出し、悪いところに気を付けて使用できるようになれば、より善くデジタル技術を活用できるようになります。

自律してメディアを使えるようになるために

デジタル技術でなくとも、たとえば本を夜遅くまで読んでばかりいて、日中の活動に支障がでるといった場合には、そのメディアに依存しているといえるのではないでしょうか。
でもあまりそういう問題は聞かないと思います。

その理由の根底に「インターネットやSNSは子供にとってよくないもの」という意識があるように思います。

本当にそうでしょうか? インターネットほど手軽に物事を調べる手段は他にありませんし、SNSほど友人と簡単に連絡をとることのできる方法はなかなかないでしょう。

ではなぜこれらが問題にされるかというと、「子供が何をしているのかを大人が直接確認できないから」なのではないかと思います。
この考え方はある意味もっともなこととは思います。

善悪や、やってよいことといけないことの区別がつきにくい時期の子供たちが、過激な情報も載っているインターネットを自由に閲覧できたり、SNSをずっと使っていたりしたら周りの大人たちが不安になるのは当然です。

ですがインターネットやSNSの使用のはルールを話し合って決め、それをしっかりと守ることで安全に使うことができますし、フィルタリング設定を行うことで有害なWebサイトへのアクセスをある程度遮断できます。*7

極端な例ではありますが、大人になってから突然スマートフォンを渡されて「SNSやインターネットを自由に使ってもいいよ」といわれても、使用するうえでの善悪や、やってよいことといけないことを自分で判断することは難しいでしょう。
スマートフォンなどを際限なく使い続けてしまうかもしれません。

そのため子供のころから善悪や、やってよいことといけないことの区別を自分で考えて区別できるよう訓練し、それらを自律して判断し、実行する能力を身に付ける必要があります。

それができるようになるには、周りの大人の助けが必要です。子供がメディアの使用について考えてわからない部分を大人へ聞いたときに、周りの大人が上手く導いてあげる必要があります。

子供が自分で考えて、わからない部分を大人に確認してそれを実行する。このサイクルを繰り返すことで、少しずつ、さまざまなメディアへの理解を深めてより善く利用できるようになることが期待できます。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
デジタル技術への依存について、デジタル・シティズンシップで考える一助となることができれば幸いに思います。

引用・参考文献

*1 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」最後に… 急増するVDT※利用時間→VDT症候群などが心配? カラダへの影響を考えて使い方を工夫しよう!
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/reference/reference06.html
(最終確認日2023年2月6日)

*2 内閣府 普及啓発リーフレット集 青少年の保護者向け普及啓発リーフレット
「保護者がおさえておきたい4つのポイント(生徒編)」4ページ(PDF形式:490KB)
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_use/r03/leaf/pdf/leaf-4.pdf
(最終確認日2023年2月6日)

*3 文部科学省 情報モラルに関する指導の充実に資する〈児童生徒向けの動画教材、教員向けの指導手引き〉・〈保護者向けの動画教材・スライド資料〉 等
保護者のための情報モラル教室 話し合っていますか?家庭のルール パンフレット (PDF:4056KB) PDF
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/06/07/1371802_3.pdf P5
(最終確認日2023年2月6日)

*4 大野 志郎 .(2019).「ネット逃避の現状―インターネットおよびアプリケーションの過剰使用者へのオンラインインタビュー調査より 」,Ⅲ-6,Ⅲ-10,Ⅲ-11,Ⅲ-12
総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』 第 2 巻第 2 号
Journal of Information and Communications Policy Vol.2 No.2
https://www.soumu.go.jp/main_content/000600676.pdf
(最終確認日2023年2月6日)

*5 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」心のよりどころだったSNS上の知人による誘い出し
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/case/case03_detail.html
(最終確認日2023年2月6日)

*6 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」悪ふざけなどの不適切な投稿
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/case/case13_detail.html
(最終確認日2023年2月6日)

*7 内閣府 ネットの危険から子供を守るために フィルタリングについて
https://www8.cao.go.jp/youth/kankyou/internet_use/filtering.html
(最終確認日2023年2月6日)

投稿者プロフィール

田代 雄太
田代 雄太
株式会社ハイパーブレイン 教育DX推進部所属
教育情報化コーディネータ3級
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