「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」から見るGIGAスクール構想
令和2年9月に、学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果の速報値が発表されました。今回は、この速報値からどんなことがわかるか、そしてGIGAスクール構想が実現することでどのような影響があるかの予想について書かせていただきます。
今回の調査でわかったこと
今回の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」では、多くの項目が前年度よりも大きく上昇する結果となりました。
この調査基準日は令和2年3月1日ですので、GIGAスクール構想の着手がされる前のデータということになります。 特に調査項目の中でも「教育用コンピュータ一台当たりの児童生徒数」「普通教室の無線LAN整備率」が過去最大の上昇をしました。
今回の調査のこれらの項目の特徴として、これまで教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数の少なかった自治体の中でも、特に人口の多い自治体(千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、福岡県等)で大きく上昇しているのが特徴です。
その様な自治体でICT機器の整備状況が上昇しているということは、日本全体で学校へICT機器を導入することの関心が高まっていると言えるのではないでしょうか。
これに加え、更にGIGAスクール構想によって児童生徒一人1台の端末整備や、それと併せて通信環境の整備がされることになりますので、GIGAスクール構想の実現に伴って加速的に整備が進んでいくことが期待されます。
一方で、先生方のICTを活用した指導に関しては、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数や、普通教室の無線LANほど大きく伸びてはいません。
様々な要因が考えられますが、ICTを用いた新しい指導を取り入れるための時間の確保が難しいという理由のほかに、現在の児童生徒あたりの端末数が少なすぎることや、無線LANが整備されておらず、授業でできることに制限がかかっていることが原因として考えられます。
その反面、令和元年度中に「ICT活用指導力の各項目に関する研修を受講した教員の割合」は、児童生徒の端末数や普通教室の無線LANの整備率と同じく上昇しています。
このことから、先生方に、授業にICTを取り入れることの必要性の認識が高まっていることがわかります。
教員のICT活用指導力の詳細
教員のICT活用指導力の状況を見てみますと、「A.機材研究・指導の準備・評価・校務などにICTを活用する能力」と「D.情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力」が高水準である反面、「B.ICTを活用して指導する能力」と「C.児童生徒のICT活用を指導する能力」の水準が低く、上昇の割合も低いことがわかります。
B.C群の内、B2、B3、B4、C3、C4の項目が低いことがわかります。B、C群の内でもこれらの項目は、どれも実際に児童生徒が端末を操作する必要のある指導項目です。これらの項目が他の項目と比べて大きく低いということから、児童生徒が操作するための端末の数が足りていない、端末の操作の習熟度が足りていないということが示唆されます。
また、これらの項目は互いの意見・考えを共有したり話し合うなど、「主体的・対話的な深い学び」であるアクティブラーニングと深い関わりのある項目でもあります。
(アクティブラーニングにつきましては、以前の記事「なぜ今GIGAスクール構想が必要なのか(後編)」をご参照頂ければと思います。)
そのため、これらの項目は、GIGAスクール構想が実現し、端末や無線LANの整備状況が改善し、先生方がICTを用いた授業を実践できる環境が整うことである程度改善されることが期待されます。
統合型校務支援システムの導入率も大きく上昇しています。校務の負担が軽減すれば先生に時間的な余裕が生まれ、ICTを用いた指導を導入するスキルを磨く時間が増えることが期待できます。
GIGAスクール構想の実現でどんなことができるようになるか
では、GIGAスクール構想が実現すると、具体的にこれらの項目がどのように変化するのでしょうか?
B3の項目である「児童生徒一人一人の理解、習熟に応じた学習」は、GIGAスクール構想で整備された端末で、必要なツールを導入することで、個々の学習の習得状況が見えるようになることが期待されます。
端末が増え、児童生徒が端末を使って学習する機会が増えることから、今までの活用とは大きく違う状況になることが期待できます。*1
さらに、将来的に端末を用いた家庭学習を先生が把握できるようになることも予想されます。より一層一人一人の児童生徒に寄り添った指導が期待できます。
B2、B4の項目に関しては、一人1台の端末を使用し、文房具のように使いこなすようになれば、児童生徒の互いの意見・考え方・作品などの共有はよりスムーズに出来るようになりますし、協働してレポート・資料・作品などを製作する場合にも、授業で発言されなかった少数意見が見えるようになることで、多様な考えに触れられるようになり、柔軟性を養う事に繋がります。*1
C3の「調べたことや自分の考えを文章・表・グラフに分かりやすくまとめる」に関しても、一人1台の端末の果たす役割は非常に大きいと考えられます。
調べたことや自分の考えを整理し、文章・表・グラフ・図などにわかりやすくまとめるには、端末の操作の習熟が不可欠だからです。また、考えていることは、明文化することによって整理整頓されます。
一人1台端末が実現すれば、全ての児童生徒がその作業を行うことが可能になります。
これらの実現に加え、児童生徒が端末の操作を習熟すれば、ICT機器をつかった指導そのものが円滑に進むようになることも期待できます。ICT機器が文房具化されていくことで、表現手段として端末を活用する、という学習の方法も確立していくでしょう。
その他には、どんな変化が起こるでしょうか?今現在、端末や通信設備の限られた環境下でもICT機器を用いて上手に指導を行っている先生方が大勢いらっしゃると思います。
そのような先生から端末数や通信設備という制限を取り払ったらどうなるでしょうか?
きっと、与えられた端末や通信環境をより上手く使い、更に効果的に指導を進められるようになるでしょう。先生各々の発想や工夫によって、様々な素晴らしい授業がされるようになると考えられます。
そして、その恩恵を受けるのは児童生徒だけではありません。あまりICT機器を用いた指導が得意ではない先生方も、ICT機器活用能力の高い先生から授業の方法が広がるにつれて、指導力が上達することが期待できますし、ICT機器活用のノウハウが自治体内で蓄積されるにつれて、ICT活用指導の研修内容もより一層の充実が見込めます。
機会がなくICT機器を活用しなかった先生も、もともとの授業力が高い先生が使い始めると、更に授業がパワーアップすることが今までの蓄積からわかっています。
また、研修で習得したことを端末数や通信設備の制限のない環境で実践することで、さらにICT活用指導のスキルが向上するという良いサイクルの構築も期待できます。
これまで多くの先生方が、児童生徒に楽しく、興味をもって授業を受けてもらうよう工夫をされてきていますが、一人1台端末と通信環境が整備されることで、そのような工夫の範囲が大きく広がると考えられます。ICT機器は人間の持つ表現力を拡張する機能を持つためです。
その他にも、今回導入している率が大きく伸びた統合型校務支援システムがうまく活用できれば、成績管理や個人の学習記録等がデータとして残ることで、これまで以上に一人一人の児童生徒に寄り添った学習が可能になるのではないかと考えられます。*1
またそれ以外にも、これまではテスト形式でしか学力を測定していなかった部分に関して、児童生徒が問題に対してどのようにアプローチしたかの記録から、点数だけでなく過程も評価、指導することができるようになるのではないでしょうか。
今後予想される課題
ここまで、教育の情報化の実態等に関する調査結果にGIGAスクール構想が足された場合にどのような良い影響があるかを述べてきました。しかし、上記の様なことを実現するには、様々な課題があります。
(この課題につきましては、過去の記事「運用の壁を乗り越えるために」(https://giga.h-b.co.jp/2020/08/06/運用の壁を乗り越えるために/)をご参照いただければと思います。)
これまで慣れ親しんだ授業スタイルを変えていくのはとても大変なことでしょうし、学校内にICTに詳しい先生がいない場合、誰に使い方を聞けばいいのかなど、先生方の不安があると思います。
そんな場合には、ぜひICT支援員やICT教育アドバイザー、あるいは外部のICT関連事業者等を頼っていただければと思います。ICT教育アドバイザーに相談することは無料でできますし、ICT関連事業者にはこれまでにその自治体をサポートすることで培ってきたノウハウが蓄積されています。
弊社は、先生方のパートナーとして、先生が本来する必要のない業務について頼っていただける部分はできるだけ頼っていただき、先生方が素晴らしい授業をされて、子どもたちの笑顔が増え、楽しくなるようにGIGAスクール構想を実現する助けになりたいと考えています。
<参考資料>
*1文部科学省 (リーフレット)GIGAスクール構想の実現へ(PDF:4.0MB)
(最終閲覧日2020年9月15日)
投稿者プロフィール
-
株式会社ハイパーブレインです。
教育の情報化に貢献し,豊かな会社と社会を作ります。
最新の投稿
- HBI通信2022年2月21日令和の日本型教育とは38
- HBI通信2022年2月14日令和の日本型教育とは37
- HBI通信2022年2月7日令和の日本型教育とは36
- HBI通信2022年2月3日令和の日本型教育とは36