クラウド環境整備の手順について(中編)
前回は、総務省の公表している「教育クラウド調達ガイドブック」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000700786.pdf)で紹介されているクラウド環境の整備の4段階(準備段階、計画段階、調達段階、運用段階)の内、計画段階までをご説明させていただきました。今回は、調達段階についてご説明させていただきます。
まずはクラウドの調達方法や手続きにどのような方式があるのかを見てみましょう。
1調達範囲の区分(一括調達 / 分離調達)等*1
クラウドサービスはクライアント側の端末とネットワークを一括で調達するか、クラウドサービスだけを個別調達するかに分かれます。
また、調達する機能全てを既存のクラウドサービスで賄うか、自治体に必要な機能をクラウドサービス上でカスタマイズするかで事情が変わります。
機能をカスタマイズするような場合には、インフラ基盤部分にクラウドサービス利用し、その上に SI 事業者(情報システムの設計、開発、導入、運用、保守などを行う事業者)がシステムを構築しますので、SI 事業者との契約のなかにクラウド事業者との契約を含める形が一般的になります。
2調達手続き 随意契約 / 競争入札、総合評価落札方式 等(価格偏重にならない工夫)*1
近隣自治体との共同利用などの理由から、目的の機能をすべて満たすようなサービスが存在する場合はそのサービス提供元との直接契約を結ぶのが自然ですが、複数の候補から選択する場合には競争入札が一般的です
特にSaaS・パブリッククラウド型校務系サービスの調達の場合には、サービス利用するうえでのリスクやセキュリティ対策等の確認が必要であるため、コスト面だけで業者を選定するのではなく、必要な情報の提供を要請し、価格面、セキュリティ面、機能・性能面を総合的に評価する総合評価落札方式による業者選定が望ましいと考えられます。
(※総合評価落札方式とは、「あらかじめ公表された評価基準に従って技術点 ( 性能や機能 ) と入札価格から評価点を算出し、事業者を決定する」方式のことで、価格だけではなく提案内容も含めて事業者を選定する方式のことを言います。)
教育委員会・学校・地域の現状と将来の方向性を踏まえ、どのような方法で調達するのが最適かを考える必要があります。
この場合、「だれが評価するのか」が非常に重要になります。学校現場の意向や専門的な見地からの意見を取り入れることができるよう、教育委員会の担当者や学校現場の教職員に加え、外部専門家等を選定委員として組織化し、提案を受けたICT環境の実現可能性や有効性等について適切に見極める必要があります。*1
「教育クラウド調達ガイドブック」では、上記のように調達方法が紹介されており、様々な立場から意見を検討し、自治体内で取りまとめて調達を行うのが重要であることがわかります。
次に、実際の調達にあたっての留意事項です。調達にあたっては、学習系・校務系クラウド共に必要な情報セキュリティ対策を満たしているかが重要です。(クラウドサービスに必要な情報セキュリティ対策に関しましては、別途の記事でご説明します。)
その他に、学習系クラウドと校務系クラウドの調達において、留意すべき点は以下のようになります。
学習系クラウド
- GIGAスクール構想で調達した端末で、問題なくクラウドサービスが利用できるか
(ローカルでデータを保管せずクラウドに置くタイプの場合、調達するクラウドサービスでデータを保管することができるか)*7
- 授業で用いるための性能・機能を満たし、授業中動画の再生等を行っても遅延等で授業への悪影響が起こらないか
- 地域の特性や、児童生徒の発達段階に応じたクラウドサービスを選択できているか
- 学校のネットワーク基盤で授業中に問題なくクラウドサービスを使用できるか
(無線LANで利用する周波数帯は2.4GHz 帯と5GHz 帯の2種類があります。
2.4GHz 帯は学校の立地条件によっては外来波の影響を受ける場合がありますが、5GHz 帯よりは壁などで遮られても比較的電波が届きやすい特性があります。
5GHz 帯は無線 LAN 専用で利用しやすいですが、2.4GHz 帯よりも壁などで遮られると電波が届きにくくなります。
無線LANが校内で広く利用できる環境を確保できるかは学校の立地条件や学校建物の内部構造に依りますので、アクセスポイントの設置場所選定においては現地調査を踏まえて設計する必要があります。*7)
特にネットワーク基盤は学校全体の物理的な設備であり、変更には大変なコストと労力がかかります。
実際にクラウドサービスを導入した結果、学校中でネットワークを使うための帯域幅が足りなかったり、特定の場所だけ無線LANが届かないためクラウドサービスを利用できず授業に支障が出る、ということになると抜本的な見直しが必要になってしまいますので、事前の調査で特に注意が必要です。
校務系クラウド
●サービス提供内容(機能・性能)と利用者ニーズとの整合性*2
各ベンダが提供する統合型校務支援には各社の特色があるため、教育委員会が学校のニーズを踏まえて選択すると考えられます。
例えば、使いたい機能を全て満たしている校務系アプリケーションがクラウドサービスとして提供されていれば、そのまま今のシステムから移行して利用することができます
●サービス継続性、サプライチェーン構成、データ保管場所等に問題が無いか
これらの点につきまして、詳しくは以前こちらの記事「クラウドサービス導入時の留意点」(https://giga.h-b.co.jp/2021/12/08/クラウドサービス導入時の留意点/)にて紹介しております。
●個人情報は適切に取り扱われているか*3
校務系クラウドでは児童生徒の個人情報を取り扱いますので、その点を十分に留意する必要があります。
既存のクラウドサービスを利用する場合には、クラウドサービス事業者がクラウド利用者の個人情報にアクセスでき、自治体によるカスタマイズをしたクラウドを利用する場合には、カスタマイズを行った SI 事業者がクラウド利用者の個人情報にアクセスできます。
しかし、これらの事業者がデータを自ら取り扱う場合には、法令上、個人データの第三者への提供や、委託による提供の規制に従う必要があります。
そのため、契約条項によって事業者がクラウドに保存された個人データを取り扱うことができないことを取り決め、かつ適切なアクセス制御が行われる必要があります。
また、事業者らが個人情報が含まれる利用者データの安全性をどのように確保しているのか、万が一個人情報が漏えいした場合の対応が明確になっているのか等についても充分に確認しておく必要があります。
●SLA(Service Level Agreement)が適切か
クラウドサービスの調達にあたり、上記の他にSLA(サービスレベル契約)のレベルに問題が無いかも大切なポイントです。
SLAとは、提供されるサービスの範囲・内容・前提事項を踏まえた上で「サービス品質に対する利用者側の要求水準と提供者側の運営ルールについて明文化したもの」*4で、クラウドサービスでは、99~99.5%程度の稼働率をSLAで保証することが多いようです。*5
また、次の (A)~ (D) に掲げるようなサービス停止についての前提も、クラウドサービスごとに異なりますのでご注意ください。*5
上記を踏まえた上で、「教育クラウド調達ガイドブック」で紹介されているSLAの構成例を掲載します。(SLAの締結に関しては、コストと品質のバランスを取ることが必要不可欠になります。*6 )SLAの構成例として、ご参考にしていただければと思います。
SLA を締結するうえでの留意事項*6
SLA を締結するにあたっては、クラウド事業者があらかじめ用意している SLA のひな型を利用する場合と、自治体がクラウドサービスへの要求事項を提示する場合があります。どちらの場合でも、内容をしっかりと吟味した上で SLA を締結することが重要になります。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。今回はクラウド環境整備の4つのプロセスの内、調達段階をご説明させていただきました。次回は運用段階についてのご説明をさせていただきたいと思います。
<出典>
*1 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P16 (最終閲覧日2022年1月13日)
*2 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P47 (最終閲覧日2022年1月13日)
*3 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P51 (最終閲覧日2022年1月13日)
*4 経済産業省 SaaS 向け SLA ガイドライン (最終閲覧日2022年1月13日)
*5 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P49 (最終閲覧日2022年1月13日)
*6 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P50 (最終閲覧日2022年1月13日)
*7 総務省 教育クラウド調達ガイドブック 本編 P29 (最終閲覧日2022年1月13日)
投稿者プロフィール
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株式会社ハイパーブレイン 教育DX推進部所属
教育情報化コーディネータ3級
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