改訂版 全国の学校における働き方改革事例集(令和4年2月)のご紹介2

前回に引き続き、改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB)についてご紹介させていただきます。
Part1では小学校、中学校での様々な学校のICT化による働き方改革への取り組み事例や、どのような体制で働き方改革へ取り組んだか、教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)による先生方の負担軽減の例が紹介されています。

特に、校務のどの部分を最初にICT化することで働き方改革を始めたか、教員業務支援員を活用するにあたり、どのような点が大切か、行政職の皆様の参考になる点が多くあるため、ご紹介いたします。

小学校での取り組み事例

今回紹介されている小学校では、Googleチャットを使って教室と職員室にいる先生間の情報伝達ができるようにしています。
その他にも、GoogleスプレッドシートやGoogleカレンダーを使った予定・行事の共有、児童の出欠席連絡をGoogleフォームで受け付けること等が取り組み事例として紹介されています。*1
(下図に記載されているような出欠席連絡やアンケートに使用できる各種フォームの雛形が改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part3 (PDF:7.3MB)からダウンロード可能で、アプリケーションの使用許可が下りていれば、学校でそのままお使いいただくことが可能となっております。)

アンケートなどの雛形
<出典:文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part3 (PDF:7.3MB) P151https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_4.pdf(最終閲覧日2022年8月26日)>


上記の取り組みによって、欠席連絡等で先生が職員室と教室を行ったり来たりする朝のドタバタが減ったとのことです。
その他にも、行事・予定を入力する場所を一本化することで、何度も同じことをする手間や記入漏れ等のミスを減らしています。
また、最新の情報を常にどこにいても、手元の端末から見られるようにしています*1

「ここさえ見ておけば学校の最新の伝達事項が載っている」という状態にすることで、先生の情報伝達がスムーズになり、特別教室の予約が被ってしまうといった問題もなくなった、というメリットも挙げられています*1

校務のICT化は、ICTが苦手な先生の理解をなかなか得られないといった困難があるかと思いますが、効果が実感しやすく、簡単な部分から始めてみると、そういった先生方からも同意を得やすくなるのではないかと思います。

特に欠席連絡の周知は、ホワイトボードを撮影しそれを各学級へ配信する、という非常にわかりやすい取り組みでICT化の効果が先生方の実感として得られており*2、簡単なことからでも、できることからやってみることの大切さがわかる、とても良い例となっています。

これらの他にも、会議や研究協議においては、学校としての知見を蓄積できるようになり、データをいつでも誰でも振り返ることができるようになったこと等が例として挙げられています*3

中学校での取組事例

今回取り上げられている中学校では、「学びを止めないICT」から「働き方改革のICT」へ、を標榜しています*4

先生方も、最初は「ルールが設定されていない中でタブレットを渡されて困ったなという印象」や「聞けばわかるかもしれないかもしれないけれど、他の方法でやろう」と思っていたことが語られています*5

それをそのどのようにして、ICTを活用して校務を行うように変えていったのでしょうか?
従来の方法を変えていただくためには、とても大きなエネルギーや動機が必要です。

ICT化を担当した先生は、まずは先生方にタブレットを見る習慣をつけてもらうことが大切だと考え、打ち合わせの資料をTeamsへアップロードすることで、タブレットを見なければならない状況を作っています。
また、Teamsアプリ内にフォルダを作り、全職員がいつでも好きな時に見られるように工夫をすることで、普段からタブレットを見る習慣がついたと述べています*6

これらの取り組みの結果、打ち合わせ直前の情報を資料へ反映できるようになったり、会議の中で変更があった場合も、その場で資料を変更したりできるようになりました。
何度も印刷し直して配布する手間がなくなり、時間を効率的に使えるようになったことが語られています*7

また、Formsでとったアンケートや分析結果を共有がしやすくなったことが述べられています。
その他にも、対象の先生宛にメンションを付けてTeamsへ投稿を行うようにしたりすることで、先生間のやり取りがスムーズにできるようなったとのことです。

それ以外でも、いつでも学校の最新情報を見ることができるようになったことで、先生方に一斉に情報を告知できることも、大きなメリットとして挙げられています*7

こういった取り組みの結果として、特に令和3年度に入ってからは積極的にICTを活用する先生が増えてきたことが語られています*2

両学校での取り組みの共通点

今回紹介した学校の例では、校長先生が「失敗してもよいからとにかくやってみる」という精神でICT化に取り組んでおり、その後押しもあって、ICT化を担当した先生が非常に動きやすい状況が作られています。

また、校長先生自らが校務を実際にICTで行ってみて、その効率の良さを実感した上でICT化を推し進めており、その経験があるからこそ、他の先生方へも進めやすいと語っています*2

その他の共通点として、一人の先生にICT化を任せきりにせず、全ての先生のいる場で、校長先生がICTの積極的な利活用を後押ししています。

ICTが得意な先生を担当にされるのは正しいことと思いますが、その先生一人に任せてICT化を進めようとすると、担当となった先生の負担が大きくなりすぎてしまう危険性があります。
また、他の先生方への影響力の点で問題がでたり、ICT化がその先生の担当している業務にとどまってしまう可能性があります。

そのため、校長先生の協力が必要不可欠です。

学校のICT化によって働き方改革ができるかは、校長先生がICT化に前向きであるかどうかにかかっています。

とても大変な事とは思いますが、教育長に自治体内の校長先生に号令をかけていただくこと等も視野に入れて、ご検討いただければと思います。

その他には、欠席連絡を書くホワイトボードや、打ち合わせの資料といった、先生方が必ず見るものからICT化していこうという方針で取り組みを進めています。これはとても大切なことです。
身近で効果をより実感しやすいところからICT化を進めることで、ICTに不慣れな先生にもその便利さがより良く伝わり、理解が得られやすくなります*2

では、一方でどんなことに気を付ける必要があるのでしょうか?
それは「ICT化そのものを目的化しない」ということです*2

あくまで業務負担を軽減するためにICTを活用するのであって、それによって余計な手間が増えてしまったら本末転倒ですね。
そのため、どうしてもICTが苦手な先生に対してはできるだけサポートしながら進めていくことや、ICTで置き換えてしばらく経っても効率が良くならないような場合には、従来のやり方へ戻すということも大切です*2

教員業務支援員の活用について

最後の例では、教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)の活用について紹介されています。

令和3年度の教員業務支援員の配属状況は、都道府県で85.1%、政令市で100%、市区町村では81.3%と非常に高く*8、また令和4年度文部科学省概算予算要求では、要求額として103億円、24,300人(前年より64億円増加、人数14,700人増加)*9と、全国の小学校、中学校、高等学校に配置されたとすると、各学校に約0.7人が配置されることになります。
そのため、今後の学校現場では、教員業務支援員を上手く活用することでの負担軽減も大いに期待されます。

教員業務支援員の活用にあたっては、依頼する先生方と、教員業務支援員のコミュニケーションを上手く取ることが大切です。本資料で紹介されている学校では、教頭先生が中心となって教員業務支援員のマネージメントを進めており、教育委員会が手引書を作成して各学校へ配布しています*10

また、教員業務支援員が実際に行っている業務の例として、スポーツテストの記録用紙への記載やテスト採点のお手伝い、プリントの印刷や印刷物のホチキス止めや穴あけ、アンケートの集計、消毒業務、電話対応など対応範囲が非常に多岐にわたることが紹介されています*11

その他にも一日を通してどのようなスケジュールで働いているか、よりスムーズに業務を行ってもらうために、依頼表を使って依頼していることが紹介されています*11

依頼表とは、先生が教員業務支援員に頼みたい業務を書き込み、いつまでにどの段階までの業務を行って欲しいかを依頼する文書で、口頭以外にこのような手段を用いることで、先生が授業や部活動の間にも作業を進めてもらうことができるようにするものです。(下図)

依頼表イメージ
<出典:文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB) P143
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf(最終閲覧日2022年8月26日)>



業務を依頼した先生へのインタビューでは、先生の授業中や部活動の間も、学校に2台しかない印刷機を有効に活用できるようになることで、その分の時間を他の業務に充てたり、早く帰宅することにつながるなど、業務時間の削減効果がとても大きく表れていることが語られています*2

あまり教員業務支援員を上手く活用できていない学校では「どんな業務ならお任せしても良いだろうか?」「こんな簡単なことをお任せしては失礼ではないか?」と、つい依頼を躊躇してしまう先生方がいることがあると、インタビューで述べられています。
また、これまで教員業務支援員が配置されてこなかった学校では、そもそもどうすれば上手く活用できるのかがわからない、というケースもあるかと思います。

そのような場合には、教育委員会側でどのような業務を行ってもらうか等を記載したマニュアルを用意していただくことで、教員業務支援員がスムーズに働けるようになります。
また先生方がどのような業務をお願いできるのかで困ることが減ります*2

教育委員会の皆様は普段から大変お忙しいとは思いますが、具体的にどのような業務を行ってもらうのかを周知することや、マニュアルを整備することでの活用の促進をご検討いただければと思います。

また、教員業務支援員の雇用にあたっては、国へ申請することで、3分の1の補助金が出ることが 文部科学省 令和4年度 概算要求のポイントに記載されています。
是非こちらの予算も上手く使って、教員業務支援員の活用促進に役立てていただければと思います。

令和4年度概算要求スクールサポートスタッフ補助
<出典:文部科学省 令和4年度概算要求のポイント P8
https://www.mext.go.jp/content/20211210-mxt_soseisk01-000019439_5.pdf
(最終閲覧日2022年8月26日)>


ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
次回は、改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)に掲載されている、より具体的な働き方改革の手段について、ご紹介させていただきます。

引用

*1 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB) P4
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_2.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*2 文部科学省 学校における働き方改革フォーラム(令和4年2月25日)
https://www.youtube.com/watch?v=ozXkYWy5KkA&t=2557s
(最終確認日2022年8月26日)

*3 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB) P6
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_2.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*4 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB) P8
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_2.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*5 文部科学省 ゼロから始める!ICTを活用した校務効率化【中学校編】
https://www.youtube.com/watch?v=v1hLJP1FfSs&feature=youtu.be
(最終確認日2022年8月26日)

*6 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB) P9
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_2.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*7 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB) P10
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_2.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*8 文部科学省 令和3年度教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果の概要 (PDF:3,133KB)P22
https://www.mext.go.jp/content/20220304-mxt_zaimu-000019724_1.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*9 文部科学省 令和4年度 概算要求のポイント P8
https://www.mext.go.jp/content/20211210-mxt_soseisk01-000019439_5.pdf
(最終確認日2022年8月26日)

*10 文部科学省 教員業務支援員が活躍している学校のヒミツ
https://www.youtube.com/watch?v=ll9O15I2xq8
(最終確認日2022年8月26日)

*11 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part1 (PDF:2.8MB) P14
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_2.pdf
(最終確認日2022年8月26日)


投稿者プロフィール

田代 雄太
田代 雄太
株式会社ハイパーブレイン 教育DX推進部所属
教育情報化コーディネータ3級
GIGAスクール構想に関する情報をお届けいたします