改訂版 全国の学校における働き方改革事例集(令和4年2月)のご紹介3
前回は、働き方改革に取り組んだ学校へのインタビューや、教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)についてご説明させていただきました。
今回は、同資料のPart2部分にあたる、より具体的な働き方改革の方法の中から、効果の大きい事例、比較的取り組みやすいと考えられる事例をご紹介させていただきます。
Part2では、取り組み内容と業務の削減時間、働き方改革へ取り組んだ学校へのインタビューが掲載されています。
また、「業務ごとの取組」「業務分担の見直し」「執務時間の創出」「外部人材の募集・活用」と大まかに4つに分類されており、学校の置かれている状況に応じて、必要な事例を探しやすく、参考としたい部分から調べることのできる構成となっています。*1
それでは掲載されている取り組みを見ていきましょう。
部活動の精選・複数顧問の実施
特定の先生の負担がとても大きい校務として部活動が挙げられ、この業務負担を減らすための方法が掲載されています。
人数の少ない部活動の統廃合や、入学予定の生徒へ事前アンケートを行い部活動の数を精選する、学校にない部活動を行いたい児童生徒に対しては、部活動の一部を外部団体へ移行するといった方法で業務時間の削減に取り組んでいます。*2
その他にも、週2日の休養日や全校で月1回「ノー部活デー」を設定する、といった試みが行われています*4。
部活動を統廃合するにあたって「保護者からの声が気になる」「子供たちの出来ることの幅が狭くなってしまうのではないか」という意見もあるかと思います。
こういった声に対して実践校では保護者へ良く説明をしてご理解いただくことで対応しています。
また、統廃合が難しい場合には、部活動顧問を複数おいてシフト制にしたり、朝練を見直すといった業務削減が挙げられます*4。
実践校では、これらの取り組みの結果、部活動の精選では年に129時間、複数顧問の実施では年に43時間の業務削減に成功しています。
また、部活動の様々な部分を変えるにあたって、あらかじめ教員間で議論を行い、教員業務の優先順位の1位は授業づくりであることを再確認し、それを先生方の間で共通の理解とした上で実行をしています。*3
そのため、先生方が一丸となって部活動の業務削減に取り組むことができ、業務時間の削減を成功できたと考えられます。
慣例・校務の見直しについて
その他にも、慣例や校務全般の見直しの重要性が挙げられています。
校長面談の際に、指導主事が校長先生を待つために立って待機している時間がどのくらいかを計算してみたところ、指導主事一人につき年間32時間廊下に立っていることがわかった、という例があります。*5
この時間を無くすことができれば、それだけの時間を教育のために使うことができるようになります。
このような例もあるため、働き方改革の際には、慣例や校務全般を見直しす必要があると考えられます。
どの部分が重要かは、学校によって大きく異なると思います。
そのため、学校全体を把握している校長先生が陣頭指揮をとって見直しを始めて、そこからそれぞれの担当している業務を見直していくというプロセスが必要となります。
欠席連絡のフォーム受け付け、保護者とのやり取りのWEBアンケート化
次に、ICTを用いた働き方改革の例を見てみましょう。
欠席連絡をフォームで受け付けることで約33時間、保護者向けの連絡をWebアンケート化することで、約43時間の業務時間を削減しています。*6
前々回にこちらの記事でご紹介させていただいたように、欠席連絡をフォームで受け付けるようにすることで先生方の朝貴重な10分の余裕を作ることができます。
また、その時間を児童生徒と触れ合う時間に使うなど、様々なことができるようになります。
その他にも、紙を使わずWebアンケートやメールを活用して学校から保護者へ情報連絡するようにし、印刷にかかっていた時間の削減や、児童生徒が配布資料を紛失するリスクを削減することに成功しています。*7
業務時間の削減だけでなく、配布資料の紛失や情報の発信漏れを防ぐことにもつながりますので、是非とも取り組みを検討していただきたいと思います。
会議の見直し、ICTを使った教職員のやり取り
その他に紹介されている働き方改革には、職員のやり取りのICT化や、必要な会議等の見直しが紹介されています。(職員のやりとりのICT化に関しては、前回こちらの記事でご紹介させていただきました。)
例に挙げられている取り組みとして、会議の開催回数の見直しや、少人数での会議への移行等があります。*8
これだけだと、会議の情報が全ての先生にいきわたらないのではないかという不安もあるかと思います。
そこで、上記のICTを用いた即時の情報共有を行えるようにしておくことで、少ない人数で決まったことでも、即座に全ての先生へ情報を届けることができます。
また、会議の時間をしっかりと決めて、引き伸ばさないように時間が来たら必ずそこで切り上げる、という取り組みも紹介されています。*9
その結果、限られた時間内で審議するという意識を教職員が持つことにつながった*9とされており、時間当たりの業務の質が上がるという意味でも非常に効果のある取り組みです。
取り組みの結果、会議の回数や参加する人数を減らしすぎて問題が起こった場合等には、以前の数に戻すことで対処が可能です。
そのため、まずはやってみるという精神で進めてみて、必要があれば元に戻す、というように取り組むことで、少しずつ働き方改革を進めていくことが出来ます。
教科担任制の導入
小学校では、教科担任制の導入も例として挙げられています。
この取り組みは、年間100時間の業務削減効果があるとされています。*10
教科担任制の導入によって各教師が教材研究をする教科数が減り、全体の時間外勤務の削減につながったことが示されています。*10
また、複数の教師で児童を見ることにより、学級崩壊のリスクが弱まったというメリットも挙げられています*10。
例として小規模校での実践がインタビューとして取り上げられており、先生が免許を持っている教科を分担して受け持つことで、全体の空き時間を確保しています。(下図)
その他にも、一人の先生が少数の科目へ集中できることで、科目や教材への理解がより深まり、児童の学びの質が上がるということもメリットです。*11
取り組みを行った学校が児童へアンケートを取ったところ、「いろいろな先生に教えてもらうことが良い」が90%前後、「各教科の授業内容が良くわかる」が90%を超える結果となっています。*11
また、教職員へのアンケートでも「学習指導の充実につながる」という回答が100%となっており、とても大きな効果があることがわかります。*11
電話受付時間の設定
その他に、比較的技術的に簡単で、業務時間削減効果の大きな取り組みとして、電話受付時間の制限が挙げられます。
これは放課後は留守番電話に切り替えることや、電話対応を午後6時半で終了するといった取り組みで、年間約67時間の業務削減と紹介されています。*12
この取り組みでまず不安に思われるのが、保護者からのご意見かと思います。
取り組みを行った学校ではしっかりと説明を行った上で、アンケートフォームを緊急連絡用のツールとして取り入れており、生徒に何かがあった場合に管理職の先生にすぐに通知が行くような仕組みを作っています。*13
留守番電話をフォームで受け付けるようにするだけで、約67時間もの業務時間が削減できる、というのは校務の適切な箇所をICT化することで業務量を大きく削減できる好例ですね。
留守番電話のフォーム化や、上述したように保護者との連絡をWebアンケート化することで、業務時間を比較的簡単に、効果的に減らすことができると考えられます。
取り組みの難しさと、削減できる業務の量は比例するわけではありません。そのため「できるところからやっていく」の精神で、是非働き方改革へ取り組んでいただければと思います。
最後に
以前から何度もお伝えしてる通り、学校の働き方改革は校長先生が非常に大きなカギを握っています。
全ての先生へ号令をかけることや、学校全体を見渡して指示を出すことができるのは、校長先生だけです。
この資料は、どんな取り組みを行って実際に効果がどの程度あったか、どんなことで困ってそれにどう対処していったかが掲載されている資料です。そのため、働き方改革の第1歩を踏み出す上必要なヒントが、とても沢山載っています。
学校の働き方改革が思ったように進まずにお困りの行政職の皆様には、是非本資料を参考にして、取り組みを進めていっていただければと思います。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
次回はPart3「明日からできるグループウェア活用法」に掲載されている、各種プラットフォームでの具体的なグループウェアのをご説明させていただきます。
引用
*1 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P17
(最終確認日2022年9月15日)
*2文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P66
(最終確認日2022年9月15日)
*3 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P67
(最終確認日2022年9月15日)*4文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P68
(最終確認日2022年9月15日)
*5 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P27
(最終確認日2022年9月15日)*6文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P75,76
(最終確認日2022年9月15日)*7 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P78
(最終確認日2022年9月15日)*8文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P99
(最終確認日2022年9月15日)*9 文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P104
(最終確認日2022年9月15日)*10文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P117
(最終確認日2022年9月15日)*1 1文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P121
(最終確認日2022年9月15日)*12文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P134
(最終確認日2022年9月15日)
*13文部科学省 改訂版 全国の学校における働き方改革事例集Part2 (PDF:6.8MB)
https://www.mext.go.jp/content/20220221-mxt_kouhou01-000020595_3.pdf P135
(最終確認日2022年9月15日)
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