やむを得ず学校に登校できない児童生徒等へのICTを活用した学習指導のご紹介2

前回は突発的な学級閉鎖や学年閉鎖が起こったときに学びを継続する方法として、持ち帰り学習や朝のホームルームをWEB会議で行う方法をご紹介しました。

今回は少し進んだICT活用による学びの継続手段として、遠隔配信型授業と、映像教材配信と問題演習を組み合わせた遠隔授業についてご紹介します。

遠隔配信型授業

遠隔配信型授業はPowerPointなどで作成した資料を黒板の代わりにして児童生徒へ共有しながら、あるいは板書を取りながら、先生が授業をWEB会議システムなどで中継して行う形態です。

この方法のメリットは

  • 通常授業の延長として学びを継続できる
  • PowerPointなどで作成した資料を使ってWEB会議システムで授業する場合、手元の端末から児童生徒の顔を確認しつつ指導を行える
  • 板書の代わりとなる資料をあらかじめ作成しておけるので、通常の授業だと黒板へ文字や図を書くために使う時間で、別のことができる(PowerPointなど資料を作成した場合)
  • 一定の要件(同時双方向型のオンラインを活用した学習指導、課題の配信・提出、教師による質疑応答及び児童生徒の意見交換をオンラインを活用して実施する学習指導(オンデマンド動画を併用して行う学習指導を含む*1))を満たすことで、オンラインを活用した特例の授業として学習評価への反映ができる*1
    (下図)
遠隔教育システム活用ガイドブックP100
<出典:文部科学省 遠隔教育システム活用ガイドブック(第三版)
https://www.mext.go.jp/content/20210601-mxt_jogai01-000010043_002.pdf P100
(最終閲覧日2022年12月19日)>

などが挙げられます。

特に児童生徒の反応を見ながら指導を進められるため、比較的通常の授業に近い感覚で行うことができるのが大きなメリットです。

一方、デメリットは

  • 授業の配信や画面、資料を共有するためICTへの慣れが必要
  • 安定した接続環境が学校と家庭の両方で必要
  • 黒板を映して授業を行う場合には専用のマイクやカメラなどの機材と、それに合ったセッティングが必要*2

などが挙げられます。

特にPowerPointなどで作成した資料を元に授業を行う場合には、資料作成のため、よりICT利活用への慣れが必要になります。

一方で黒板を用いて授業を中継する場合には、適切なセッティングをしておかないと、カメラが映す文字や図が小さすぎて読めなかったり、マイクがうまく先生の声を拾ってくれなかったりといった問題が起こります。

そのため遠隔配信型授業を行うにあたって、普段の授業でのICTの利活用に慣れておくことや、事前に予行演習を行って適切な環境を構築できているかを確認することが大切です。*3

そのほかにも接続が途切れてしまった場合でも授業がストップしてしまわないように授業の流れをあらかじめ共有しておくことや、緊急時の連絡手段(電話など)を備えておくことも大切です。*2

遠隔配信型授業は準備などが大変ですが、その分他の遠隔授業と比較してできることが多いのが特徴です。

例えば通常の授業時のように、電子模造紙(ネットワーク上にある仮想の模造紙)へ児童生徒の端末から写真や図形を貼り付けたり、文字を書き込んだりすることで*3離れていても児童生徒間の意見の交換を行うことなどができます。

また授業の一部を遠隔で配信し、問題演習のときには児童生徒から質問に受け答えをする流れにするなど、慣れればさまざまな形の指導ができるようになります。

映像教材と問題演習による遠隔授業

その他の遠隔授業の手段として、児童生徒の自宅で映像教材を見てもらい、それに合わせた問題演習をしてもらうという方法もあります。

この方法のメリットとして

  • 映像部分は必ずしも自身で撮影する必要はなく、既存の映像教材を使用できる*4
  • 自分の授業を録画する場合や、学習進度に合った適切な映像教材が見つかれば、通常の指導の延長として学びを継続できる
  • 黒板の板書の代わりとなる資料を作成するのが苦手な先生も、映像教材を利用して授業を行うことで、問題演習だけではなく、さまざまな情報を取り込んだ学びを継続できる
  • 教科担任制で、録画を学年全体のその教科で使用できる場合には手間を減らせる可能性がある

などが挙げられます。

反面、デメリットは

  • 授業を録画して配信を行う場合には、ICT活用や撮影への慣れが必要
  • 必ずしも学習進度や授業内容に合致する映像教材が見つかるとは限らない
  • 既存の映像教材を利用する場合には、著作権に関して特に注意が必要*5

などが挙げられます。

授業で使用できる映像教材の例として、NHK for School(外部サイト)に掲載されている動画があります。NHK for Schoolでは学年、教科のほか学習指導要領や単元、使っている教科書からも教材を探すことができます。

(NHK for Schoolの動画をインターネットなどを通じて提供する場合は、教育機関設置者(教育委員会、学校法人等)が、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)に届け出を行い、補償金を支払う必要があります。*6
授業目的公衆送信補償金制度については、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)のこちらのサイト(外部リンク)をご覧ください。
また、NHK for Schoolの動画を再生するのに必要な接続スピードはおおむね700kbps(0.7Mbps)*6です。)

NHK for Schoolのほかに、文部科学省「子供の学び応援サイト」のこちらのページ(外部リンク)でも授業で利用できる映像教材が掲載されています。

前回ご紹介した形式も含めると、持ち帰り学習による課題演習が最も難易度が低く、遠隔配信型授業、映像教材と問題演習を中心とした授業は、撮影の準備やICT活用の面で難易度が高い方法と考えられます。

そのため突発的な学級閉鎖や学年閉鎖が起こった場合には、可能な先生には遠隔配信型授業や、映像教材と問題演習を中心とした授業を必要に応じて行ってもらい、難しい先生には前回ご紹介した持ち帰り学習などの端末の持ち帰りによって学びを継続してもらう。
そのような、ICT活用の習熟度や授業の目的に応じた方法の使い分けをしてもらえればと思います。

最初のコロナ禍では、持ち帰り学習で問題演習中心の授業を行うにあたって、紙中心で授業を行おうとすると、児童生徒一人一人に対して自宅訪問をして問題を配ったり、郵送したりする必要があり、先生方へとても大きな負担がかかっていました。

そのため、前々回ご紹介したMEXCBTによる問題配布や、グループウェアによる問題の共有、導入している自治体ではデジタルドリルの活用など、ICTを活用した問題配信を行ってもらえればと思います。

ただMEXCBTによる問題配布グループウェアによる問題の共有は、どうしても機能面で学習専用に開発されたデジタルドリルには及ばない部分があります。
そのため行政職の皆様には、臨時の学級閉鎖や学年閉鎖時の学びの保証の観点や、一人一台端末を活用した通常授業、持ち帰り学習時にもより良い学びを児童生徒へ届けるためにも、ぜひデジタルドリルの導入を検討してもらえればと思います。

遠隔授業に必要な機材

遠隔配信型授業や、映像教材と問題演習による遠隔授業に最低限必要な機材は、児童生徒の一人一台端末(マイク、カメラが付属したもの)とマイクとカメラが付属した先生用の端末(PC、タブレット端末)になります。

黒板を使って遠隔配信型授業を行う場合や、撮影を行う場合には、文字が読みやすくなるように三脚を使ってカメラの位置・角度を調整することで授業がしやすくなります。
また指向性マイクを使うことで、先生の言葉がより聞き取りやすくなります。*2

実際に遠隔配信型授業を行う前には、黒板に書いた文字が児童生徒の端末でちゃんと読めるかを確認することや、端末を通して声がしっかりと聞こえるかを確認することが大切です。

非常時に備えた平常時の取り組みについて

前回でもご説明したように、緊急時にできるだけ滞りなく学びを継続するためには、普段からできるだけICTの活用に慣れておくことがとても大切です。

そのための取り組みとして、例えば全校集会のオンライン配信を行ってみてはどうでしょうか。この方法であれば学校内の多くの先生が、WEB会議を使った一斉配信をするにはどのような手順が必要なのか知ることができます。(下図)

感染症・災害等の緊急時に備えるための平常時の取組
<出典:文部科学省 遠隔教育システム活用ガイドブック(第三版)
https://www.mext.go.jp/content/20210601-mxt_jogai01-000010043_002.pdf P104
(最終閲覧日2022年12月19日)>


ICTを使った取り組みについてはまずはやってみるの精神で取り組んでみることも重要です。実際に行うことで解決しなければならない課題を洗い出せますし、環境に依存した問題はやってみないと現れません。*7

そのため緊急時のICT活用で問題が起こった場合、マニュアルだけを頼りに解決しようとしても難しい場合があります。そんな場合に備えて、ぜひ日頃からICTを活用してもらえればと思います。

全国の端末持ち帰りの準備状況

臨時休業等の非常時における端末の持ち帰りの準備状況に関して、令和4年1月末時点で全国の公立の小中学校等の95.2%が準備済みと回答しています。(下図)

臨時休業時等の非常時における端末の持ち帰り学習の準備状況
<出典:文部科学省 臨時休業等の非常時における端末の持ち帰り学習に関する準備状況調査(令和4年1月末時点) (PDF:542KB)
https://www.mext.go.jp/content/20220204-mxt_shuukyo01-000020366_1.pdf
(最終閲覧日2022年12月19日)>

約95%の学校が端末の持ち帰り準備ができている、というのはGIGAスクール構想以前と比較してICT活用がものすごく前進したと言えるのではないでしょうか?

この数字は現場の先生方の苦労や、自治体による端末持ち帰りに関するさまざまな制度整備の後押しなど、とても大変な思いをされて持ち帰り端末の推進に取り組まれてきた方々の努力の結果と思います。

それだけ苦労をして整えた環境なのですから、できるだけ有効に使わないともったいないのではないでしょうか。

そのため、ぜひ持ち帰り端末を利用しての遠隔配信型授業や、映像教材と問題演習による遠隔授業ができるような整備を検討してもらえればと思います。

またその際には前回もご紹介させていただいた「文部科学省 (別紙2)やむを得ず学校に登校できない児童生徒へのICTを活用した学習指導等 自治体の事例 (PDF:3.7MB)(外部サイト)」などの、ICT活用に関して先進的な、さまざまな自治体の指導例やマニュアルなども参考にしてもらえればと思います。


ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
学級閉鎖や学年閉鎖など、非常時における学びの継続の一助となることができれば幸いです。

引用

*1文部科学省 遠隔教育システム活用ガイドブック(第三版)
https://www.mext.go.jp/content/20210601-mxt_jogai01-000010043_002.pdf P100
(最終確認日2022年12月19日)

*2文部科学省チャンネル 上級編「始めよう遠隔教育」
https://www.youtube.com/watch?v=0LGDI2f0-bE&t=23s
(最終確認日2022年12月19日)

*3 文部科学省 遠隔教育システム活用ガイドブック(第三版)
https://www.mext.go.jp/content/20210601-mxt_jogai01-000010043_002.pdf P9
(最終確認日2022年12月19日)

*4 文部科学省 (事務連絡)やむを得ず学校に登校できない児童生徒等へのICTを活用した学習指導等について(令和4年1月12日) (PDF:322KB) P4
https://www.mext.go.jp/content/20220112-mxt_jogai02-000017631_000001.pdf P4
(最終確認日2022年12月19日)

*5 文部科学省 遠隔教育システム活用ガイドブック(第三版)
https://www.mext.go.jp/content/20210601-mxt_jogai01-000010043_002.pdf P21
(最終確認日2022年12月19日)

*6 NHK for School NHK for Schoolへのよくある質問 著作権について
https://www.nhk.or.jp/school/help/
(最終確認日2022年12月19日)

*7 熊本県教育委員会 ICT活用テーマ別実践ガイド GIGAスクール構想研修パッケージ 遠隔学習・オンライン学習編
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/169463.pdf
(最終確認日2022年12月19日)

投稿者プロフィール

田代 雄太
田代 雄太
株式会社ハイパーブレイン 教育DX推進部所属
教育情報化コーディネータ3級
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