総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」のご紹介とデジタル・シティズンシップ教育のご説明
総務省よりWebサイト「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」(外部リンクが開きます)が公開されました。
この資料にはこれまで総務省から発信してきたインターネットに関するさまざまなトラブル事例やそれに対する防御方法、予防方法が掲載されています。
今回はこの資料から、ネットトラブルの防御・予防方法のほか、デジタル・シティズンシップ教育の考え方をご説明いたします。
児童生徒のインターネット・SNS利用によるトラブル事例
インターネット、SNSなどのデジタル技術はとても便利で、私たちにさまざまな情報や知識、娯楽、コミュニティなどを提供してくれます。
では児童生徒たちがいきなりこれらのデジタル技術を使っても大丈夫なのでしょうか?
何も知らずにインターネットやSNSを使用することは危険です。だからどんなトラブルがあってそれに対してどのような防御・予防方法があるのかを知り、なぜそれを守るのかを考えてもらう必要があります。
たとえば子供が家の外を歩くにあたって、最初は親と手を繋いで歩くのではないでしょうか。次に赤信号で止まることを知り、青信号だと進んでよいことを知ります。
そうして段階的にさまざま交通ルールを知り、経験を積んで最終的に家の外を一人で歩くことができるようになります。
インターネットやSNSの利用にも同様のことがいえます。
何も知らずに使うと、深く考えずに個人の特定につながる情報を書き込んでしまうことや、画面の向こう側にも同じ人間がいることが直接見えないために相手を傷つけてしまうことがあるかもしれません。
また信頼性の低い情報を信じてしまったり、人と交流をしていて感情的になってしまったりすることもあるでしょう。
インターネット、SNS上の人間を交通ルールで例えると、皆が歩行者であり、車でもあります。気を付けずに使っていると、自分が傷ついたり、相手を傷つけたりしてしまうことが起こりえます。
また近年では詐欺の受け子としてSNSで何も知らずに使われるなど、デジタル技術を使った犯罪も高度化してきています。*1(下図)
ではどうすればインターネットやSNSなどのデジタル技術を使ったときに、犯罪に巻き込まれたり、人を傷つけてしまったりするのを防げるでしょうか?
今回紹介の資料では
「ネットの匿名性はもはや有名無実。個人が特定されて逮捕に至るような現状からも理解できますよね?! 一時の感情や流れに任せず、ほんの一瞬でいいので、毎回立ち止まって 「それ、実名でも投稿する?」と自問自答するクセをつけましょう。」*2
「ネットに刻まれた情報をなかったことにするのはほぼ不可能。バズったり炎上したりしなくても、進学・就職等に響いた人が!! 送信をタップした瞬間、文章も画像も動画も一瞬でアップされてしまう時代。人生の岐路で後悔しないためにも、SNSデビューと同時に気をつけるよう心がけましょう。」*2など事例に応じてさまざまな防御・予防方法が説明されています。(下図)
これらの事例と防御・予防方法を児童生徒へ教えて、皆がそれを守り続ければ常に安全にデジタル技術を使うことができるでしょうか?
それは難しいでしょう。技術の進歩とともに、常識も手段も、そして悪用する側の人間の方法も日々変わっていきます。
そのため単純に防御・予防方法を覚え、それを守り続けるのではなく、それがどうして大切なのかを自分自身で考えられるようになり、日々スキルをアップデートする必要があります。
考えてそれが正しいかを確かめて、デジタル技術を使う能力を身に付けるよう練習することで、他者に配慮し、より善く使いこなせるようになっていきます。
Common Sense Education(外部リンクが開きます)のデジタルシティズンシップ教材(日本語字幕版)(外部リンクが開きます)では、「情報の正確性を確かめるためには記事の署名欄や公表された日付、発行元をちゃんと確認するようにしましょう。署名や日付のない記事は信用できないかもしれません。」*3「コメント欄は誰でも書き込めることは覚えておきましょう」*3と説明されています。
そのほかにも「情報を発信する前には情報を送る前に、一呼吸して考えましょう。」*4や「名前や住所、誕生日などの個人情報は共有しないようにしましょう。でも趣味や好きなことなどその人らしさを教えるのは大丈夫。」*5「わからないことがあったら、周りの大人に自分から聞いてみよう」といったデジタル技術をより善く利用するための基礎が紹介されています。
動画配信のときに注意すること
特集では動画配信について取り上げられています。インターネットで配信されている動画を、知識を得るためや娯楽のために利用されている方も多いのではないでしょうか。
今回紹介の資料では3つの相談が例として掲載されています。(下図)
上の画像では動画視聴の際にクレジットカードを使って投げ銭(動画配信者へお金を送ること)をして、あとから高額の請求に気が付いた事例が掲載されています。
親のクレジットカードを子供が勝手にこっそり使い、請求がきてから発覚するという事例は数多くあります。*6そのためスマートフォンやタブレットにクレジットカードを登録する場合には、たとえ自分の子供でも勝手に利用できないようにしっかりと設定を行う必要があります。
そのほかに動画配信・視聴時にやってはいけないことの一つとして、著作権の侵害が挙げられます。
たとえばあるコンテンツ(音楽やゲームなど)を動画撮影して配信するとします。そのコンテンツの配信を行いたい場合には、著作権者のWebサイトで許可されていることをしっかりと確認した上で行う必要があります。*7(下図)
著作権を侵害すると、音楽やゲームを作った人たちの売り上げに悪影響を及ぼします。
コンテンツを作った人はその著作物によって収入を得ています。
それが絶たれてしまうと著作者がのちの作品を作れなくなるなど、コンテンツの衰退だけでなく、著作者が生活できなくなるといったことに繋がりかねません。
そうなるとコンテンツが途絶えてしまい、使用できる著作物が減って、結果として侵害した人も使うことができなくなります。
そうした事態を防ぐために、著作権を守って行動しなければいけません。
著作権をはじめ権利関係は複雑で、配信の許可があるかどうかは音楽やゲームなどコンテンツの中でも個別に変わります。
そのため使用したい音楽やゲームの著作権者が配信許可を出しているか、権利を持つ会社のWebサイトなど、信頼できる場所で確認をする必要があります。*7
音楽に関しては、音源制作者が許可を出している楽曲の弾き語り動画や、同じく許可が出されていてリミックスOKで公開されているものは大丈夫です。*7
リミックスとは音楽の原曲を編集して、新たなバージョンの曲を作ることを指します。*8また配信を行うメディアの規約・ガイドラインに沿って楽曲を使用する必要もあります。
権利関係の確認に手間はかかりますが、配信が許可されているコンテンツもたくさんあります。
自分で、どんな動画なら著作権上や個人情報上で問題がないかを確認して配信や動画作成を行い、そのコンテンツが好きな人たちが集まることができるのはとても素晴らしいことです。
配信や動画の作成には編集や撮影などさまざまなスキルが必要であるほか、著作権などについても勉強する必要があるため、子供たちにとってそれらの能力の向上につながります。
そのほかにも複数のコミュニティに属することができて、たくさんの人とのつながりを持つこともできるといったメリットもあります。(もちろんコミュニティの安全についても考えて所属する必要があります。)
より善いデジタル技術の使い手になるために
これまで遠くの人と繋がり、コミュニティを作るためにはたいへんな労力がかかっていました。しかしインターネットやSNSを上手に活用することで、物理的な距離などの制約をある程度取り払って活動することができるようになります。
そしてそのようなデジタル技術を善く活用するには、単純に「個人につながる情報をさらすと危険」「著作権を侵害してはダメ」いう教えを守るだけではなく、その理由を考えられるようになる必要があります。
何が危険でなぜダメなのか、他の人を尊重するにはどう振舞えばよいのか、何に気を付ければよいか、権利を侵害しないためにはどう振る舞うかを考えなければなりません。
そしてそれらのことを考えられるようになったら、実際に実行できるようにする能力を身に付けるよう実践してみましょう。
最初から難しいことをする必要はありません。SNSへ投稿をする場合であれば、投稿する前にしっかりと確認する癖をつけたり、投稿してもよいかわからなかったら周りの大人に聞く、ということも立派な実践です。
インターネットやSNS上で感情的に反応しそうになったときに、一度画面を閉じて深呼吸してみるだけでも少し落ち着くことができます。
動画配信の例では、自分で正しく判断ができない間は著作権や個人情報についてきちんと判断のできる大人に確認をしてもらってから行う必要があります。
そしてその際にはどんなことに気を付けれればよいかを子供たちに考えてもらって、意見を教えてもらい、考え方が正しいかをしっかりと確かめます。
そしてそれが間違っていた場合には、どういう考え方で結論を出したのかを聞いて、どこが間違っているのかを教えてあげられると、よりデジタル技術を活用するための能力が高まります。
そうして少しずつできることを増やしていくことで、インターネットやSNSの世界で安全に行動することができるようになります。
安全に、他者に配慮し、デジタル技術の利用を通じて社会に積極的に関与し、参加する能力がデジタル・シティズンシップです。*9
この考え方や能力は自然に身に付くものではなく、学び実践する必要があります*10。
一人一台端末が実現した今、全ての子供たちがこの能力を身に付けていく必要があります。
学校でも家庭でも、子供たちがこの能力を育み実践できるようになるためには、まずは大人がデジタル・シティズンシップ教育について知らなければなりません。
そのためぜひ行政職の皆様も、学校の先生方も、そして保護者の方にもデジタル・シティズンシップ教育についてよく知ってもらい、子供たちがより善くデジタル技術を活用できるように導いてほしいと思います。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
児童生徒がインターネットやSNSでのトラブルに巻き込まれることを防ぎ、デジタル・シティズンシップ教育を考える一助となることができれば幸いです。
引用
*1 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」
4 情報発信編〜被害者にも加害者にもならないために~ 15アルバイト応募が招いた犯罪への加担
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/case/case15.html
(最終確認日2023年1月23日)
*2 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」
特集1コロナ禍で見えてきた!?ネットの使い方についてあらためて見直してみよう
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/special/feature01.html?u18
(最終確認日2023年1月23日)
*3 デジタルシティズンシップ教材(日本語字幕版)
5年 ニュースをオンラインで読む(Shimpei Toyofuku訳)
https://www.youtube.com/watch?v=_WG8yaJy2io&list=PLNoOLCJNPgDdox0vBJ-V4FMyDLWUob829&index=14
(最終確認日2023年1月23日)*4 デジタルシティズンシップ教材(日本語字幕版)
1年生:テクノロジーを使うとどんな気分?(Shimpei Toyofuku訳)
https://www.youtube.com/watch?v=7i_xVsmYwR8&list=PLNoOLCJNPgDdox0vBJ-V4FMyDLWUob829&index=5
(最終確認日2023年1月23日)
*5 デジタルシティズンシップ教材(日本語字幕版)
個人情報とその人らしさの情報(日本語吹き替え版)(Shimpei Toyofuku訳)
https://www.youtube.com/watch?v=ZJf6Ue3ZaLY&list=PLNoOLCJNPgDdox0vBJ-V4FMyDLWUob829&index=29
(最終確認日2023年1月23日)
*6 都民安全推進部
ネット スマホのなやみを解決 こたエール 相談事例
https://www.tokyohelpdesk.metro.tokyo.lg.jp/consult/jirei/ryoukin.html
(最終確認日2023年1月23日)
*7 総務省「上手にネットと付き合おう! 安全・安心なインターネット利用ガイド」
インターネットトラブル事例集 著作権法改正で見直したい身近な使い方
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/case/case04_more.html?pt
(最終確認日2023年1月23日)
*8 ウィキペディア 「リミックス」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9
(最終確認日2023年1月23日)
*9 文部科学省 安心安全な利活用とデジタル・シティズンシップ教育
https://www.mext.go.jp/content/20210827-mxt_jogai01-000017383_01.pdf P6
(最終確認日2023年1月23日)
*10 文部科学省 安心安全な利活用とデジタル・シティズンシップ教育
https://www.mext.go.jp/content/20210827-mxt_jogai01-000017383_01.pdf P8
(最終確認日2023年1月23日)
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