運用指針には必ず目を通しましょう
皆さんこんにちは
「授業目的公衆送信補償金制度」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
2018年の著作権法改正により創設され、2020年4月にスタートした制度です。学校、自治体に大いに関係する制度ですので、詳しく見ていくことにしましょう。
本日は「改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)について」についてご説明いたします。
法律で定められたとしても、細部にわたってくると境界線があいまいなことはよくあります。
その細部についてあちこちで解釈が違ってくると困ってしまいますね。そのため、「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が運用指針を公表しています。2020年12月に令和3年度版が公表されたばかりで、今のところ毎年改定されています。特に令和2年度は新型コロナウイルス蔓延により、短期間で難しい判断をすることが多かったために、一度落ち着いてきちんと見直そうという動きも出ていました。
関係者フォーラムには、教育現場の代表者や権利者の代表者、有識者らが集まって運用指針を検討しています。どのように検討されていったかについては議事録や資料が公開されていますので、確認しておいてください。https://forum.sartras.or.jp/minutes/
運用指針は全体で22ページとボリュームがあります。少しずつ見ていきましょう。
最初に「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではありません」という但し書きがあります。
35条の例外として、特例として認めているが、一番先に著作権者の利益を守る方向で考える、ということですね。
まず、法律の文章が紹介され、その後言葉の定義にページが割かれています。
例えば「複製」について長いですが引用してみましょう。
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「複製」
手書き、キーボード入力、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により、既存の著作物の一部又は全部を有形的に再製することをいいます(著作権法第2条1項15号。著作物だけでなく、実演、レコード、放送・有線放送の利用についても同様です)。
該当する例
- 黒板への文学作品の板書
- ノートへの文学作品の書き込み
- 画用紙への絵画の模写
- 紙粘土による彫刻の模造
- コピー機を用いて紙に印刷された著作物を別の紙へコピー
- コピー機を用いて紙に印刷された著作物をスキャンして変換したPDFファイルの記録メディアへの保存
- キーボード等を用いて著作物を入力したファイルのパソコンやスマホへの保存
- パソコン等に保存された著作物のファイルのUSBメモリへの保存
- 著作物のファイルのサーバーへのデータによる蓄積(バックアップも含む)
- テレビ番組のハードディスクへの録画
改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)4Pから引用
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このように、「複製」の定義を確認し、学校の活動においてどういうことがそれにあたるのか、という具体例を挙げて説明してくれています。
他にも「公衆送信」「学校その他の教育機関」「授業」「教育を担任する者」「授業を受ける者」「必要と認められる限度」「公に伝達」などが挙げられています。
特に「授業」は詳しくありますので、こちらも見てみましょう。
何が授業に該当し、何が授業に該当しないのか具体的に書かれています。
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「授業」とは」学校その他の教育機関の責任において、その管理下で教育を担任する者が学習者に対して実施する教育活動を指します。
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学校その他の教育機関については先に定義されています。また、教育を担任する者についても先に定義されています。
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該当する例
- 講義、実習、演習、ゼミ等(名称は問わない)
- 初等中等教育の特別活動(学級活動・ホームルーム活動、クラブ活動、児童・生徒会活動、学校行事、その他)や部活動、課外補習授業等
- 教育センター、教職員研修センターが行う教員に対する教育活動
- 教員の免許状更新講習
- 通信教育での面接授業(注1)、通信授業(注2)、メディア授業(注3)等
- 学校その他の教育機関が主催する公開講座(自らの事業として行うもの。収支予算の状況などに照らし、事業の規模等が相当程度になるものについては別途検討する)
- 履修証明プログラム(注4)
- 社会教育施設が主催する講座、講演会等(自らの事業として行うもの)
該当しない例
- 入学志願者に対する学校説明会、オープンキャンパスでの模擬授業等
- 教職員会議
- 大学でのFD(注5)、SD(注6)として実施される、教職員を対象としたセミナーや情報提供
- 高等教育での課外活動(サークル活動等)
- 自主的なボランティア活動(単位認定がされないもの)
- 保護者会
- 学校その他の教育機関の施設で行われる自治会主催の講演会、PTA主催の親子向け講座等
※履修者等による予習、復習は「授業の過程」とする。
※次の①~③は、授業の過程での行為とする。
①送信された著作物の履修者等による複製
②授業用資料作成のための準備段階や授業後の事後検討における教員等による複製
③自らの記録として保存しておくための教員等または履修者等による複製
※高等専門学校は高等教育機関だが、中等教育と同様の教育課程等について本運用指針での対応する部分が当てはまる
注
1 通学制の大学と同様の授業
2 教科書等(インターネット配信を含む)で学んで添削指導や試験を受ける授業
3 インターネットを通して教員と学生が双方向でやりとりして学ぶ授業。リアルタイムに行う「同時双方向型」と、サーバーにコンテンツを置く「非同時双方向型」がある。
4 社会人等の学生以外の者を対象とした教育プログラム。修了者には学校教育法に基づく履修証明書が交付される。
5 Faculty Development。教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組み
6 Staff Development。職員を対象とした管理運営や教育・研究支援までを含めた資質向上のための組織的な取り組み
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改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)P6から引用
とあります。具体的ですね。教職員会議は該当しないということですので、注意が必要です。
これは「例外としては認められない」ということですので、本来はオンラインでの職員会議でデジタル教科書等の画面を公衆送信する場合は1回ずつ許諾が必要だったのが、補償金を支払うことで著作権者の利益を不当に害さない限り許諾なく使うことができる、ということになりそうです。
このあたりの線引きラインは非常に微妙です。
そのため、ガイドラインの改訂は見逃さず、常に最新の情報を確認する癖をつけることが大切ですね。
次回は、もう少し詳しくこの制度を見ていきます。
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