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働きながら勉強できる、だからこそ続いた「同じ使命を持つ仲間」との縁の連鎖

話者:2010年入社 O.K.
取材:2022年11月


2018年に女性初の教育情報化コーディネータ1級を取得し、教育ICT化を先導するOさん。「企業で働くこと」と「大学院で勉強すること」を両立させ、現場とアカデミー領域の両面からアプローチすることで、学校教育の構造的な課題に挑んでいます。

教員一家で育ち「先生にはなりたくない」と思った

2022年12月時点でも、教育情報化コーディネータ1級の保持者は日本に7人しかいません(公式サイト調べhttps://jnk4.info/itce/goukaku_q1.html)。
まだまだ未開拓の分野とも言える状況ですが、なぜこの道を選ばれたのでしょうか。

私は両親ともに教員の、いわゆる「先生一家」で育ちました。子供の頃から教員という仕事を尊敬してはいたのですが、両親のあまりの多忙さに「先生になるのは無理だ」とも思っていました。授業を通して児童生徒を育てるプロであるべきなのに、それ以外の雑多な、非効率な業務が多すぎて本来の専門性を磨く時間すらない。そんな状況を解消するような「先生を助ける仕事」が必要だ、と子供の頃から漠然と感じていました。

先生を助ける仕事の中で、ICT支援はかなり新しい分野に入るかと思います。どのような経緯があったのでしょうか。

大学卒業後、民間の社会人向け英会話教室を経て学習塾の講師に転職しました。どちらもハードな職場でしたが、特に学習塾の講師は生徒さんの理解度に合わせた指導ができるため、全員に「分かった、できた、理解した」という喜びを届けられる、楽しい仕事でした。

その後、結婚を機に塾の本部に異動し、そこで情報システムに携わることになりました。当時はExcelを使って点数管理するような仕組みができ始めていた頃です。パソコンを使うだけで、こんなにも簡単に、全国の生徒さんの点数を一元管理できる。「学校の先生に必要なのはこの技術だ」と思い、教育現場のICT化を進めるべきだと考えるようになりました。

教育の現場は、上からしか変えられない

それでも、例えばExcelの技術を持つ先生として教育の最前線には行かなかったのはなぜでしょうか。

学校教育の構造的な課題を根本的に改善するには、もっと上流側からの指示が必要なためです。そこで、住まいのある自治体の教育委員会へ「教育現場をICTで支援したい」とメールを送ってみました。それをたまたま、学校教育の情報担当をしている先生が読んでくださり、「教育研究所」という部署の臨時職員枠に空きが出ることを教えていただいて、事務職員として転職しました。
そこでは文部科学省から各学校に対して配布されるヒアリングシートの入力支援などをしていました。調査対象は多岐にわたり、数も多く、現場がそれらの対応に追われて本来すべき業務に支障が出ています。それらのお手伝いは、とてもやりがいがありました。
ハイパーブレインはその頃にヘルプデスクを実施する業者として縁があり、リーマンショックの影響で臨時職員の契約更新ができなくなったタイミングで誘っていただいて入社を決め、現在に至ります。

ICT支援の行き詰まり感を、現場以外からの視点で見つめ直す

一貫して、教育現場を支援するキャリアを進んでいるように見えます。まさにICT支援員は教育現場を効率化して、子どもの学びを豊かにするものですよね。

そのような認識になってきたのはごく最近だと思います。現在でこそGIGAスクール構想でタブレットが普及して状況が変わりましたが、コロナ禍以前は「ICT支援員はいずれ不要になる仕事だ」という意識が根強く、業界の中ですら「先生たちがシステムに慣れるまでの、一時的なお手伝いにすぎない」と言う声がありました。

業界の中でさえ、仕事の価値を明確に定義できない状態だったということでしょうか。

確かに全てを自分の力でこなせる先生も存在します。しかし、それを全員に求めては先生たちの大変さは増すばかりです。だから支援は絶対に必要なのだ……と思いながらも、どうすればこの仕事の価値を知ってもらえるか、出口を見つけられずにいました。そこで、たまたま愛知教育大学に情報教育を専門に学べる学科があり、そこの先生が全く同じ課題感をお持ちだということを知ったのです。アカデミー領域からのアプローチという選択肢を知って「これだ!」という思いでした。
ICT支援という仕事の行き詰まり感を打破したい、そのために大学院に入って学び直したい、と社長に直談判したところ「なら、働きながら学べば良い」と即答で決断いただき、週3日の業務と週2日の大学院通いで、仕事と学びを両立できることになりました。

働きながら研究を続けてみて、良かったことはありますか?

学んだことをすぐに現場に適用できたり、現場の話をディスカッションの場に提供できたりと、充実した研究ができました。同じ使命を持ち、教育現場の課題をなんとかしたいと考える仲間ともたくさん知り合えました。大学院に行くために仕事を諦めていたら無理だったと思います。

質を上げ、待遇を上げて、ICT支援員を「イケてる仕事」に

例えば、研究を通じて知り合った方をICT支援員に誘いたいでしょうか。Oさんの考えるICT支援員の「あるべき姿」についてお聞かせください。

GIGAスクール構想以降、ICT支援員の重要性が見直されつつある今であれば、誘いたい人材はたくさんいます!
当時からICT支援員になりたいと考えている人はいましたが、雇用は不安定で報酬は安く、とても誘える待遇ではありませんでした。しかし、支援員の質と待遇を上げていく取り組みを進める中で、情報教育、教育工学という分野でもICT支援員の課題が見直されつつあります。

まだまだ課題は山積みですが、現場サポートとしてはICT支援員の育成、構造的な問題に対してはアカデミー領域からのアプローチでこの仕事の質を上げ、魅力的で付加価値の高いプロフェッショナルとして世の中に知らせていきたい、そうして学校教育の現場をもっと豊かで効率的なものにしたいと考えています。



取材・記事作成:studioKOKS